宿角レティシア、タラントゥリバヤについて語る

宿角レティシアは、とても丁寧に対応してくれた。テロリストの過去など、触れたくもないと考える者も少なくないであろうに。


「彼女は、とても可愛らしい女の子でした。ただ、あまり目立つタイプではなかったので、私も正直なところ、それほど彼女について印象的なものはあまりないんです。けれど、四年生に上がった頃から、暗い表情をするようになったことだけは覚えています。私が『どうしたの?』と尋ねても『なんでもないから』『大丈夫だから』と応えるだけで……思えばあの頃にはもう、ご両親の関係が良くなかったのでしょうね……」


千堂アリシアが、タラントゥリバヤ本人から聞いた生い立ちを大まかに話した後で初等学校での彼女の様子を尋ねると、レティシアはそう応えた。さらに、


「私では、何も力になってあげられなかった。せめてご両親の関係が上手くいっていなかったことについて情報があれば、もう少し違った対応ができたかもしれないけれど、彼女は頑なに『なんでもない』『大丈夫』と繰り返すだけで……きっとご両親の不仲そのものを認めたくなかったんでしょうね。何かの間違いに違いないと……現実を受け止めきれなくて認めようとしないというのは、子供のみならず大人でもそういうことはあるのに、私は、『自分は臨時の教師だから』ということに甘えて、踏み込むことをしなかった……それが悔やまれます……」


視線を伏せつつ悲し気に語った。それに対してはアリシアは、


「いえ、レティシア様が気に病むことはないと思います。一人の生徒だけに注力するわけにいかないのは<担任教師>の立場としては当然のものですから」


と告げた。するとレティシアは、


「ええ、私もそれは分かっているんですが、それでも『もしかしたら』とは思ってしまうんです。私の人生も、『あの時、こうしていれば』の連続でした。戦争で実の息子を亡くし、たくさんの友人を亡くし、それぞれについて、『あの時、こうしていれば』と思わないことは一つとしてありません。私と森厳しんげんの人生は、無数の後悔の上に成り立っているんです。だからこそ、私達は自身の人生が終わるその時まで努力を続けなければと思っています……」


静かに、それでいて力強く、揺るがぬ信念を感じさせる言葉を発してみせた。


だからこそアリシアも、


『確かに、その時にレティシア様に縋ることができたなら、タラントゥリバヤもあの結末を迎えずに済んだのかもしれませんね……』


とは思ってしまった。それを口にはしなかったが。


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