ボリショイ・ゴーロト、その傾向
思わぬところから初等学校の頃のタラントゥリバヤの話が聞けて、
「ありがとうございました」
と丁寧に感謝を表して亜美とのリンクを終了したアリシアは、改めて今度は中等学校へと向かった。しかしここでも、
「当校はテロリストとは関わりはありません」
と木で鼻を括ったような対応をされただけで、目立った収穫はなかった。ただ、その学校の、ネット上に設けられた連絡用掲示板には、タラントゥリバヤを名指しで痛罵する書き込みが残されていたという情報が。
実際の掲示板上からは削除されているものの、いわゆる<魚拓>という形で保存していた者がおり、ネット上に上げられていたのが拾えたのである。
そこには、
『汚い!』
『淫売!』
『ブタ!』
『死ね!』
等、目を覆いたくような悪罵の羅列。学校側はこれについて具体的な対応をしておらず、それが後の彼女を作っていったのではないか?と一部報道で触れられたこともあり、一連の書き込みを急いで削除したようだ。典型的な<隠蔽>と言えるだろう。なにしろそれ以外の他愛ない書き込みについてはそのまま今も残されているのだから。
そこからだけでも、当時のタラントゥリバヤが同じ学校の生徒達からここまで言われるほどに良い印象を抱かれないような振る舞いをしていたのが容易に窺えた。無論、具体的に何か加害行為はしていなかったのだとしても、言動の端々に周囲の人間の気に障るようなものが漏れ出ていた可能性が高い。そしてそれは事実だった。特別荒れているわけでもなかったものの、何かにつけて棘のある口ぶりが目立ち始めたのがこの頃だった。
さらに高等学校でもそれは続き、やはり同じようにタラントゥリバヤに関わると見られる情報については削除されていたり閲覧不可となっていたりした。
徹底して、
『テロリストとは関わりはない』
『我々の対処が彼女をテロリストにしたわけではない』
という姿勢を示そうとしているのが察せられる。
これは、地域的な傾向も影響しているのだろう。
『都合の悪いことはとにかく隠す』
的なそれは、元々この都市に見られるものだった。
なお、現在、千堂アリシアがリンクを行っている<チャイカ・クラウブレ>は、<覆面ジャーナリスト>が所有しているものだった。
<覆面ジャーナリスト>というのは、本人は顔も名前も出さずに取材を行い、それによって得た情報を著名なジャーナリストに売ることを生業としている者達だった。要するに<情報屋>なのだが、あくまでジャーナリズムの一環として活動している者達を特にそう呼ぶのだという。
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