千堂アリシア、連絡を取る

思いがけないところでまさかの名前を耳にして、千堂アリシアは唖然としてしまう。とは言え、確率的にはそういうこともゼロではないので、すぐに冷静になり、近くの公園のベンチに座って、連絡を取る。


明帆野あけぼの間倉井まくらい診療所の現在の医師、獅子倉ししくら大和やまとに。


「ご無沙汰しています。大和先生。千堂アリシアです」


「やあ、久しぶり。先日、千堂さんと、亜美と久美のフルメンテナンスのことでお話して以来だね」


間倉井まくらい医師の件の後にも何度か通話して顔を合わせている大和とそうやり取りし、アリシアは、


「実は、宿角レティシア様とお話がしたくて、大和先生にその仲立ちをしていただけないかと思い、ご連絡させていただきました」


と端的に用件を告げる。


「ふむ。普通は患者にそんな形で連絡を取ることはしないんだが、君がそう言うのなら何か重要なことなんだろう。一応、話は窺うよ。その上でレティシアさんに確認を取ってみよう。ただし、期待はしないでほしい。承諾するかどうかは先方次第だからね」


そう断った上で、大和はアリシアから概要を聞く。


千堂アリシアが<クイーン・オブ・マーズ号事件>と深く関わったこと。


その中で<タラントゥリバヤ・マナロフ>というテロリストの死に関わったこと。


タラントゥリバヤ・マナロフとは、事件の前に知り合ったこと。


タラントゥリバヤ・マナロフに親しみを抱いてしまったこと。


ゆえに<友人>として彼女がどうしてテロに関わるようになってしまったのかを知りたいと思ったこと。


そしてレティシアが、タラントゥリバヤ・マナロフの初等学校時代の担任であったこと。


そこでのタラントゥリバヤ・マナロフの様子を窺ってみたいということ。


について。


「なるほど……分かった。一応、レティシアさんには確認を取ってみる」


大和はそう告げて、数日後、夫の宿角すくすみ森厳しんげんと共に、定期健康診断に訪れたレティシアに、大和が、間倉井まくらい医師の一件で尽力してくれた千堂アリシアが話をしたがっているということで確認を取ると、


「分かりました。私でお役に立てるなら……」


快諾してもらえ、すぐさま、森厳が健康診断を受けている間に、亜美にリンクしたアリシアと話をすることになった。


「お久しぶりす。レティシア様。間倉井まくらい先生の葬儀以来ですね」


アリシアがそう切り出すと、レティシアも、


「そうね。間倉井まくらい先生の件では大変にお世話になりました」


深々と頭を下げてくれた。


「いえ、私では力及ばず、残念です……」


別にアリシアは間倉井まくらい医師のオペに直接深く関わったわけでもないので何の責任もないものの、ついそう口にしてしまう。けれどレティシアは、


「あなたはとても良く頑張ってくださったと聞いています。どうぞお気になさらないように」


と応えたのだった。


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