千堂アリシア、意外な接点を知る

ボリショイ・ゴーロトを訪れた千堂アリシアの目的は、


<タラントゥリバヤ・マナロフの足跡>


を追うことだった。彼女がここでどう生きて、そしてなぜ、


<クイーン・オブ・マーズ号事件>


に関わっていくことになったのかを、知りたかったのだ。しかし、生家を訪れていきなり躓いてしまった。さりとて、それを嘆いても始まらない。


なので彼女は次に、タラントゥリバヤが通っていたという初等学校を訪ねてみることにした。


そこは、ボリショイ・ゴーロトがまだ<ドーム型の都市>だった頃に創立したという古い学校だった。このためもう二百年ほどの歴史がある。そこにタラントゥリバヤは四年間通っていたという。なのに、


「タラントゥリバヤ・マナロフについては、何もお話しできません。我々はテロリストとは何の関係もありません」


と、学校の担当者に取り付く島もなく断られてしまった。まあ、それ自体は予測されていたので別に良かったのだが、学校の雰囲気そのものも、なんとなくどこか排他的で、『異物を許さない』的な考え方を醸し出している気はした。


とは言え、タラントゥリバヤはこの頃はまだ、幸せだったようだ。それもあってか、特別、目立つ生徒ではなかったと、ネット上の真偽も定かではない情報として漏れ伝わってきている。


こうして具体的には何の情報も得られず学校を出ようとした時、


「ねえ、あなた、タラントゥリバヤのことを調べてるんだって?」


教師の一人と思しき女性に声を掛けられた。やや陰険そうな顔つきをした中年女性だった。と言っても、現在の老化抑制技術からすれば、外見だけで具体的な年齢を把握するのは難しい。明帆野あけぼので知り合った間倉井まくらい医師は外見上も高齢者であり百二十歳という年齢だったが、間倉井まくらい医師が受けた老化抑制処置よりも現在はさらに進んでいて、百歳程度であればそれこそこの女性教師の外見相当だった。なのであくまで、


<見た目上、中年女性に見える女性>


というだけでしかない。が、それは余談なので脇に置くとして、


「はい。そうです」


と応えると、その女性は、


「私はタラントゥリバヤの担当じゃなかったんだけど、彼女を担当してた教師なら知ってるよ。名前は、レティシア・スクスミ。今は<アケボノ>とかいう集落で暮らしてるってさ」


そう口にした。


「アケボノ……!? それはJAPAN-2ジャパンセカンドの近隣にある集落のことですか?」


思わず問い返すアリシアに、


「ああ、そうそう、そのアケボノ。なんでもレティシアの母親がボリショイ・ゴーロトに住んでて、その介護をするためにこっちにきてて、それで臨時の教師として何年か勤めてたって話さね」


女性は語ったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る