千堂アリシア、旅の最終目的地に向かう
こうしてクラヒの下を後にして、
「ただいま、アリシア2234-HHCとのリンクを終了しました」
千堂アリシアが告げる。
「おかえり。じゃあ、次の予定まで休むかい?」
『おかえり』とは言いつつも、千堂アリシアの<本体>はこれまで通りメイトギア課の仕事もこなして千堂と一緒に屋敷で過ごしていたので、別に彼の前からいなくなっていたわけでもない。人間には不可能な、
<完全な並列処理>
で、別々の場所に<千堂アリシア>として同時に存在していただけである。自身がロボットであることを最大限に活かしているのだ。
これにより彼女は、その後さらに数十の都市や地域を、<リモートトラベル>という形で訪問し、一年をかけて人間達の暮らしを見て回った。そして、最後に、
<ボリショイ・ゴーロト>
という、地球の大国の一つ<ロシア>の支援を受けて建設された都市へと向かった。<チャイカ・クラウブレ>というメイトギアにリンクして。そこは、
<タラントゥリバヤ・マナロフ>
の出身地でもあった。
そこで彼女は、タラントゥリバヤの生家とされる家を訪れた。しかしそこは、テナントビルの建設現場になっていた。
チャイカ・クラウブレ(千堂アリシア)が近所の住人らしき中年女性に声を掛け、
「こちらに
と尋ねると、その女性は困惑した顔で、
「ああ、そのアパートなら、テロリストが住んでたとかで暴徒が押し掛けてね。あげくオイルをまいて火を点けたんだ。それで火事になってさ。あたしもそこに住んでたんだけど、焼き出されて往生したよ。まあ、おかげで前より上等な部屋に格安で入れたからよかったけどさ」
と忌々し気に口にした。
もっとも、『そのアパートにテロリストが住んでた』というのは完全に誤報だった。タラントゥリバヤの生家はそのアパートの裏手にある一軒家だったのだ。報道で映像が映った際にアパートの方だと思い違いをした者達の一部が暴徒化し、火を放ったらしい。そしてその火事がタラントゥリバヤ自身の生家にも延焼、焼け落ちてしまい、火事で大きく損傷したアパートも取り壊され、その跡地にテナントビルが建てられているというわけだった。
確かにタラントゥリバヤのしたことは許されるものではないだろうが、だからといって勘違いで無関係な建物に放火するなど、本当にどうかしている。
「……」
一般的なロシア人女性の外見の中央値を基にデザインされたというチャイカ・クラウブレの顔で悲しそうな表情をした千堂アリシアは、答えてくれた女性に深々と頭を下げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます