千堂アリシア、再確認する

などという法律上グレーであったり時には真っ黒であったりするクラヒ達の生き様に改めて触れて、


『これも人間なんですね……』


千堂アリシアはそう実感した。<アルビオン>においても、そこで暮らす人間達の価値観に従って、社会が構成されている。火星の法律に照らし合わせれば必ずしも適法とは言えなくても、そこに暮らす人間達はそれを<当たり前>として暮らしているのだ。暮らせているのだ。


様々な軋轢も生じさせながら。


実に奇妙な生き物である。そういう諸々の<嫌なこと>など回避できる仕組みがあるというのにわざわざ<嫌なことが無数にある生き方>を選ぶこともあるのだ。人間という生き物は。


ロボットであるアリシアにはそれが理解できない。できないが、否定する気にもなれなかった。人間という生き物にはそういう非合理な一面もあるのだと理解したいと思えた。理解はできないが、理解する努力はしたいと。


それに、現在の火星政府の法に照らし合わせれば<反社会的な生き方>をしてる者達だって、こんなに力強く生命力に溢れていたりする。笑い、泣き、怒り、悩み、自身の命を謳歌している。


これが事実なのだ。


そしてその中にも確かに<幸せ>はある。不思議なことに。そんな不思議な生き物に、アリシアは惹かれるのを感じた。この人間という非合理な生き物が愛おしくて仕方がなかった。


自分でもなぜそう感じるのかは分からないものの、そう感じられてしまうのだ。


クラヒのところを訪れたのは、これを再確認するためだったとも言える。だからこれで十分だった。




こうしてカルクラで十日間を過ごし、


「お世話になりました」


予定の最終日にアリシアはそう言って丁寧に頭を下げた。そんな彼女に、クラヒは、


「ああ、ま、俺もたんまり報酬はもらえたからいいけどな」


やはり顔を逸らしたままで言う。かつて、アリシアが千堂京一せんどうけいいちの下に戻った時と同じだった。すると彼女は、


「またたまに来ていいですか?」


と尋ねる。するとクラヒは、


「謝礼をはずんでくれるなら、別に構わないぜ」


なおも顔を逸らしたままで口にする。けれどその口元がわずかに緩んでいるのがアリシアには見て取れてしまった。


だがそれには触れず、


「はい、その時にはよろしくお願いします♡」


最高の笑顔で告げて、アリシア2234-HHCとのリンクを終了した。


「……行っちまったか……」


千堂アリシアが去り、元の<標準的な笑顔>に戻ったアリシア2234-HHCを見て、クラヒは少し寂しそうに呟いたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る