政治、実に魑魅魍魎の巣窟

この地域を、


『自分達の領土だ』


と主張する都市では、現在の主流とされているシステムについて、他の都市とのやり取りするための部分だけに導入されているにすぎない。それを全体に導入しようとすると、自分達の独自の<法>が運用できなくなるからだ。


これ自体が本来なら違法状態ではあるものの、以前にも触れた通り、火星政府の働きかけにも拘わらず改善される様子がない。そもそも、


『自分達は独立国家である』


と主張しているので、<国家主権>を振りかざし、火星政府からの要請を、


『内政干渉である!』


として突っぱねているのだ。そしてそんな都市の<後ろ盾>となっているのは、実は地球に存在する<国>である。三度に及ぶ火星大戦を経てもなお、地球の大国による綱引きの現場として火星は利用されているということだ。


これに対して火星政府はやはり、


『内政干渉である!』


とは主張しているものの、今なお、地球の大国の支援によりインフラが維持されている面もあるので、強く出られないというのも実情だった。理論上は完全に火星だけで社会が成立するとは言われているものの、<理論>と<実践>は必ずしも一致しないのも事実であり、特に、カルクラがあるような地域の整備には大変な費用や技術力が必要なのも事実であって、踏み切れないでいるのだという。


つまりこの地域が整備されないのは、


『整備が終わってしまうと火星政府が自分達の意向に耳を傾けなくなるかもしれない』


的な、地球の大国側の懸念も反映されているのだろう。


に<政治>というものは、魑魅魍魎の巣窟ということだ。


さりとて、実際にこの地域で暮らしている者達にとっては、雲の上の者達の思惑など知ったことではない。彼らは彼らで生きていかなければならない。だからこうしてやれることをするのだ。


今は千堂アリシアにもそれが分かってしまう。ゆえにアリシア2234-HHCの機体側からは法律上グレーな行いに対する無数の警告が発せられているものの、アリシアはそれらを無視し続けた。そもそも、それを口にしたところで、クラヒは、


「これが俺達の<当たり前>なんだよ! 邪魔すんな!」


の一言で切り捨ててしまう。


クラヒ自身、アリシア2234-HHCから頻繁に注意喚起が行われることについては慣れてしまって、ほとんど雑音として聞き流してさえいる。以前所有していたレイバーギアのように改造できるならしているところだろう。あまりにも鬱陶しい時には<停止信号>を使って止めてしまうことさえあった。


ただこれは、迂闊に使うと電波が届く範囲内のすべてのロボットが止まってしまうので、さすがに使いどころが難しいが。


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