家出少女、疑わない
『なら、それでいいじゃないですか』
アリシアのその言い様に、少女は、
「あんた、変わってんね……」
改めてしみじみそう言った。少女はあくまで、
『人間がメイトギアを使ってリモートトラベルを行ってる』
と考えているのだ。その上で『変わってる』と。
彼女の目の前にいるアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様の振る舞いが、表情が、仕草が、普通のメイトギアと違っているのは察しているのだろう。だからその向こうにいるのが人間じゃないと疑ってはいないのである。
あくまで<変な人間>という実感だった。
少女が、
『あんた本当はメイトギアでしょ?』
と尋ねれば、嘘を吐けない千堂アリシアは『そうです』としか答えられない。けれど少女がそう訊いてこないので、『ロボットです』とは告げる必要がなかった。
<リモートトラベルを行っている旅行者>
であることも事実だ。
すると少女は、クリーニングされた自身の服にアリシアの目の前で着替えながら、
「帰る……」
と口にした。それに対してアリシアは、
「そうですか。では、ご自宅近くまでお送りします」
そう告げる。ここまできてようやく、
「あんた、ロボットみたいだね」
言った。けれどこれも、『ロボットだろ?』という問いかけにはなっていないので、
「そうですか?」
と返すことができてしまった。
こうして二人はホテルを出て、アンブローゼの基底部を走る<地下鉄>に乗り、少女の自宅の最寄り駅へと向かった。
アンブローゼの地下鉄は、
清潔で、明るく、不安を感じさせない。落書きなどされても翌日には消されている。そういう鉄道なのだ。
なお、アンブローゼの地下鉄は、
<列車による移動を目的とした利用と、その見送りのための一時入場>
以外の立ち入りは認めれておらず、無断でカメラなどを設置しようものなら警備用のレイバーギアがすっとんできてすぐさま退去を求められ、応じなければ今度は警察が来て<不退去罪>で逮捕されることもある。
代わりに<資料用の映像や画像>は豊富に用意されて誰でも閲覧できるのだ。
そんな列車に揺られているうちに、少女はアリシアにもたれて眠ってしまった。降りる駅は聞いていたので、近くまでくれば起こしてくれる。
「もうすぐ、降りる駅ですよ」
あくまで穏やかなアリシアの声掛けに、
「え…? もう……?」
寝落ちした瞬間に起こされたような気がしていたものの、少女は三十分近くぐっすりと寝ていたのだった。
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