家出少女、千堂アリシアに尋ねる

現在、


JAPAN-2ジャパンセカンドロボティクス部門メイトギア課>


に所属する千堂アリシアは、人間の職員らと同じように<給与>を受け取っている。ただ、人間ではないため、IDを持たず、それに対して支払われる形の給与は受け取れない。なので代わりに<電子マネー>という形が採られているのだ。


とは言え、人間のように食事をするでもなく、遊興に浸るでもなく、自身を着飾るでもなく、メイクに拘るでもないことから、残高は増えるばかりだった。ただ、電子マネーは入金しておける上限が決まっているため、ある程度は使わないといけない。


だから、千堂邸で充電していることに対して<電気代>を、メンテナンスカプセルを利用していることに対して<使用料>を、さらには<家賃>も千堂京一せんどうけいいちに対して支払っていた。加えてオンラインアトラクション<ORE-TUEEE!>の有料コンテンツに重課金することで何とかトントンに持ち込んでいる状態だった。


それくらいなので、ホテル代やクリーニング代を立て替える程度のことは、ほぼ<誤差の範囲内>に収まってしまうようなものでしかない。


彼女にとっては痛くも痒くもないのだ。


こうして四十分ほどでクリーニングを終え、部屋に戻ると、少女がバスローブをまとってベッドに寝転び、また自身の携帯端末でゲームをしていた。そして、


「おかえり~」


ゲームから目を離すこともなく、そう口にする。


「クリーニング、完了しました」


アリシアも、言いながら少女の服や下着をベッドの上に置く。すると少女は、ゲームをしながら、


「……ねえ、なんで何も訊いてこないの?」


と尋ねた。さらに、


「大人ってさ。なんでも自分の思い通りにしようとするじゃん。私みたいのが夜に出歩いてたら、それこそお説教の嵐じゃん。友達なんか、汚いもん突っ込まれながら『君みたいなコがこんなことしてちゃいけないよ』とかお説教されたって言ってたよ。なのになんであんたは何も訊いてこないの?」


とも付け足してくる。そんな少女の顔は、メイクが落ちたことでそれこそ<子供の顔>になっていた。おそらく十四~十五くらいの。


そんな少女に対して、アリシアは、


「訊いてほしいですか?」


逆に尋ねる。それに対して少女は、


「いや、別に……」


素っ気なく応えた。


「なら、それでいいじゃないですか。私は旅行中なんです。旅先で他の方の人生にそこまで深入りすることはできません。こうして一時ひととき同じ時間を過ごせばそれで十分だと思います」


アリシアは穏やかに微笑みながらそう告げたのだった。


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