家出少女、ゲームに興じる

一曲目を終えると、少女は続けて二曲目をプレイした。一曲目は正直、不本意な結果に終わったらしく、二曲目はさらに集中しているのが分かった。体があたたまってきたのか、キレも増しているように見える。そして実際、点数を順調に稼いでいった。


すると少女の表情が確かに明るくなっている。楽しめてきているようだ。そんな少女の変化を、アリシアも察知していた。だから、メロディーに合わせて自身も手を叩いてリズムを取る。


穏やかな笑顔を浮かべながら。


これにより少女もさらに楽し気にステップを踏み、踊る。


こうして二曲目を終えた時には、満面の笑顔になっていた。得点もこの日の九位にランクイン。三曲目が追加され、


「フウッ♡」


少女はそのまま三曲目に突入、これもクリアし、四曲目が追加されると、午後十時を迎えた。


けれどアリシアはそれを告げず、少女が四曲目を踊り出したのをただ見守る。


さすがに『午後十時になった瞬間に店から追い出す』ようなことはしない。これは『千堂アリシアだから』ということではなく、他のロボットでもその程度の融通は利くのだ。


けれど、四曲目の点数は、五曲目追加の基準には届かず、


「あ~っ! ダメかあ……!」


少女は悔しそうに声を上げた。けれど、悔しいのは悔しいものの、同時にどこか満足げな笑顔でもあった。


そこでアリシアは、


「午後十時になりました。部屋に戻りますか?」


ロボットとして尋ねる。ここで少女が拒否するようなことがあれば、根拠となる法規とそれが持つ意義と理念を懇切丁寧に並べることになるのだが、


「うん、分かった♡」


存外、少女は素直に従ってくれた。思い切り体を動かしたことで発散できたようだ。


こうして部屋に戻ったはいいものの、さすがに汗だくになったので、


「あ~、お風呂入るわ~」


少女が告げると、


「では、その間にお召し物をクリーニングいたします」


アリシアが提案する。


「お願い!」


了承しつつ少女はその場で着ていたものをすべて脱ぎ捨てて風呂場へと入っていった。アリシアが見ているにも拘わらずだ。そんな振る舞いにも子供っぽさが窺える。


床に放られた衣類すべてを拾い上げてアリシアは部屋を出、ホテル内のコインランドリーでクリーニングを行った。料金はアリシアが自身のポケットマネーから出す。ホテル代も当然、彼女が負担している。とは言え、メイトギア課での<仕事>の給与として支払われている電子マネーが溜まる一方だったので、何の支障もなかった。むしろこうして使い道ができたことに、


「~♪」


鼻歌が出るほどに上機嫌なのだった。


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