根岸右琉澄、まっとうな打算
「まあ、しょうがねえ。取り敢えず片が付くまで好きにしてくれ」
『余計な口出しをして痛くもない腹を探られたくない』
という打算からくるものであっても、その、
『まっとうな打算をちゃんとできる』
だけ冷静な思考をしている人間ということではある。決して<聖人>ではないが、打算的な考え方すらできない<愚者>ではなかった。打算というのは、あくまで<合理的な思考の一面>なのだ。
また、彼は基本的に自分のことは自分でできる人間であるため、一日くらいメイトギアが傍にいなくても困るようなこともない。
とは言え、『すべてが完璧にこなせる』わけでもないのでその部分をメイトギアに補ってもらっていたがゆえに、三日四日と時間を要するとなれば話は変わってくるが。
けれど、
「あ……? 寝てた……?」
少女がハッと頭を起こした時にも、千堂アリシアはただベッドの脇でソファに腰掛けて待機状態を維持していただけだった。
「……つまんね……」
こうやって、ビジネスホテルとはいえホテルまで来たのにまったく何も起こらないことに、少女は逆に拍子抜けしていた。
『……なんか、事件でもおこりゃ、あいつらに迷惑を掛けてやれんのに……』
ぼりぼりと頭を掻きながら体を起こしつつそんなことも考えてしまう。少女は、自分が愚かな真似をすることで人間としての価値を貶めて、結果、両親に意趣返しをしようとしていたようだ。
けれど、その目論見は見事に空振りしてしまった。
千堂アリシアに出逢ってしまったことで。
だからせめてもと、
「なあ、ゲーセン行きたいんだけど」
下着が見えるのも気にせず胡坐をかいた姿で口にした。するとアリシアは、
「十時まではあと三十分しかありませんが、よろしいですか?」
と応える。未成年は午後十時までしかゲームセンターなどには入れない。IDカード等の身分証がなければ、外見では判別できない者は入場を許可されないし、夜十時を過ぎても退去しようとしなければ警察が呼ばれる。だから明らかに未成年である少女は午後十時までしか遊べない。
「いいよそれで。気分転換したいだけだし」
少女が言うので、
「分かりました」
と、ホテル内にあるゲームセンターへと少女と共にやってきた。そこで少女は、画面に表示されるコマンドに合わせてステップを踏みポーズを決めて得点を競うというゲームを始めた。
いわゆる<プロダンサー>に比べれば明らかに拙い動きではあったものの、それでも素人として見ればなかなかキレのあるステップを踏んで見せたのだった。
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