千堂アリシア、少女と出会う

そうして歩いていると、一人の少女の姿が千堂アリシア(がリンクしているアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様)の視界に捉えられた。しかも、その少女が口にしている言葉の中に、いくつもの<要注意ワード>が引っ掛かってくる。


「でさでさ、私今日、泊るところないんだよ。だからさ、お願い。二百でいいから」


わずかその短い文章の中にも、


『泊るところない』


『二百でいいから』


という、前後の文脈からしてもいかにもなそれが捉えられて、<要注意>のマーキングが付けられた。今時、こんな露骨なやり取りを口頭で行う者も珍しいのでそういう意味でない可能性も高いものの、しかし機能上そういう対処になる。


けれど少女は、


「ああもう、分かった! さよなら!」


最後はそう吐き捨てて電話を切ってしまった。もしかすると相手の人物は、彼女があんまりにも露骨なことを口にするので警戒したのかもしれない。


『囮捜査の類では?』


と。もっとも、囮捜査でさえここまで露骨なことはまずしないが。広報用のパフォーマンスとしてそのようなことを行う例は一応あるにせよ、実務上はない。


ともあれ、<通報>までは至らなかったので普通のロボットであればそれ以上は干渉しないところが、


「こんばんは。ご旅行ですか?」


千堂アリシアはそう声を掛けてしまっていた。声を掛けてどうするかまでは考えていなかったものの、つい。


「……何あんた? ロボットが何の用?」


少女はあからさまに訝し気に見上げながら問い掛けた。警官と一緒じゃないので警察用のメイトギアとも思えないが、新手の補導係かと思ったのかもしれない。


そんな少女に、アリシアは、


「私は今、旅行中です。と言ってもリモートトラベルですが」


と応えた。すると少女も、


「ああ……」


腑に落ちたという表情をする。<リモートトラベル>のことは知っているようだ。だから、人間がロボットを操っているのだろうと思ったらしい。


「で、何の用? 冷やかしならお断りだよ」


『構われたくない』という態度を示す少女に対してアリシアは提案する。


「せっかくお近付きになれたんですから、お食事でもと思いまして」


「食事……!?」


思わずそう声を上げた後で少女はハッとなって顔を背け、


「ま…まあ、奢ってくれるんなら付き合ってやらないこともないよ……」


つっけんどんな態度で応えた。そんな様子にも、千堂アリシアは、満面の笑顔を浮かべ、


「それで結構です。では、何がよろしいですか?」


と問い掛けると、少女は視線を逸らしたまま、


「パフェ……パフェが食べたい……」


告げたのだった。


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