千堂アリシア、少女にパフェをおごる

食事に誘われていながら、


『パフェが食べたい』


と言う少女の様子に、千堂アリシアは見た目以上にあどけなさを感じ取ってしまった。実は少女は化粧をしており、人間の目にはそれなりに年齢がいっているようにも見えなくもないだろうが、


<化粧による目の錯覚>


を生じないロボットにとっては何の意味もなかった。顔の造形が、


<未成熟な少女>


のそれなのだ。だから最初から<少女>であると察していた。


しかしその辺りについては敢えて触れず、


「はい、承知しました」


笑顔で応える。


そうして近くのファミリーレストランに入店。


「私は充電の許可をお願いします」


少女に対して水とおしぼりを出すホールスタッフに、店内の無線給電装置からの給電を申請、少女の方はメニューを広げて、


「この<ワンダフルスペシャルパフェ>をお願い」


と注文を出した。するとホールスタッフは、手にした端末を操作しながら、


「承知いたしました。充電についてはただいまからご利用いただけます。<ワンダフルスペシャルパフェ>につきましては、暫時お時間をいただきます」


と告げて去っていった。


深夜などだとホールスタッフがすべてメイトギアという店舗も多いが、今の時間だとまだ人間のホールスタッフも勤務中だった。


ちなみに、メイトギアの場合だと携帯端末は使わない場合も多い。メイトギア自体に端末機能を持たせることができるからだ。また、人間が使う端末も音声が録音され、客との『言った』『言わない』というトラブルを回避する手立ては講じられている。


また、もし客が店内で暴れたりしようものなら、メイトギアで包囲し、


『店側からは手は出さないが、客からの暴力も封じ込める』


形での対処も一般化していた。メイトギアなら殴られようが蹴られようが、壊れれば<器物損壊>とはなるものの、人間の従業員が怪我をすることもない。実はこれにより、加害者側も罪が軽くなるというメリットもある。暴行傷害の場合、被害者に重度障害が残ったりすれば下手をすると終身刑もありうるが、器物損壊なら、累犯でなければ罰金で済むのが一般的である。まあ、店側から<損害賠償請求>はされるだろうが。


なお、刑法犯に対する損害賠償請求の場合、加害者側に即時弁済能力がないとなれば行政が賠償金を一時立て替え、その上で加害者に税金に上乗せする形で徴収する制度もある。この場合にも、現場の詳細な情報が必要になるため、映像や音声で残すのは当然になっていた。


被害者と加害者がグルになって賠償金の詐取を目論むことを封じるためである。


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