千堂アリシア、千堂京一に想いを打ち明ける

「千堂様。私は、この火星に住む人々のことを見て回りたいです」


明帆野あけぼのでの役目を終えて数日後、千堂アリシアは、自宅のリビングで寛いでいた千堂京一せんどうけいいちにそう打ち明けた。


「……それは構わないが、私のスケジュール次第になってしまうのは、どうする?」


これまで様々な試験を重ねてきたことで、千堂と同伴であれば火星上のどの都市へも自由に渡航し、その後は別行動もとれるようになったアリシアだったが、それは同時に、


『各都市に入るまでは千堂と一緒でなければいけない』


という意味でもあり、すなわち千堂のスケジュールに縛られるという意味でもあった。


しかしそれについてアリシアは、


「はい! ですから千堂様のコネクションを使って、各都市のメイトギアにリンクすることで、<旅>をするんです!」


両手を握り締めてやや前のめりの姿勢で、力強くそう口にした。


「なるほど。<リモートトラベル>か」


<リモートトラベル>


それは読んで字のごとく、当人が直接旅行に出るのではなく、メイトギアなどにリンクすることで<リモート>で旅行気分を味わうという一種のアトラクションである。


しかし、それであれば現地で事件事故に巻き込まれる心配をする必要もなく、それでいてメイトギアとリンクすることでかなりリアルな体験をすることができるため、もはや<旅行の一つの形態>として定着さえしているものだった。


特に、高齢のため体の自由が利かなくなってきている後期高齢者や、スケジュールがタイトなため移動に時間を費やせない者達には欠かせない娯楽になっている。


「ふむ。悪くないアイデアだと思う。私の出張に同行してくれるのもありがたいが、それだと<私の出張先>という限られた場所にしか行けないからな。となれば現状、JAPAN-2ジャパンセカンドとの直接のパイプがない都市などには行ける当てがない。それでも、私の知己はこの火星上のほとんどの都市にいる。彼らに協力してもらえれば、十分に可能なことだな」


千堂も納得し、かつ興味を抱いてくれた。


「私個人は直に足を運んでこその<旅行>だと思っているのでそういう形では旅行したことはないが、アリシアの経験にはもってこいだろう」


とも言ってくれたのである。


ただ、<リモートトラベル>というのはあくまで人間が行うものであって、


『単なる旅行という形で遠隔地のメイトギア同士をリンクさせる』


などというのは前例がなく、加えて都市によっては独自の法規があるため、それに抵触する可能性もないわけじゃなかった。ずっと<遠隔リンク試験>を行っているアンブローゼのようなところでも、あくまで<業務としての試験>であって、<ただの旅行>ではなかったのだから。果たしてそれが可能かどうかを確認する必要があったのだった。


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