ロボットトラベラー、アリシアの火星のんびり紀行
プロローグ
千堂アリシアは、ロボットである。
正式名称は<アリシア2234-LMN-UNIQUE000>。日本をルーツに持つ複合企業体
<家庭用ヘルパーロボット・メイドギアであるアリシアシリーズの要人警護仕様機>
というのが本来の彼女だった。
けれど彼女は、現在の主人である
<心(のようなもの)>を彼女は獲得してしまったのである。
とは言え、様々な検証を重ねてもまだ、彼女のそれが<心>であると断定はされていない。
けれど、当の千堂アリシア自身は、それを気にしてはいなかった。彼女はもう悟っているのだ。自分がいくら気を揉んだところで、状況が変わるわけではないことを。
そして何より、彼女は今の自分を肯定していた。人間ではなく、ただのロボットでもない、この世で唯一の存在。いわば<孤独>でありながら、彼女は<孤立>はしていなかった。主人である
彼女は多くの<出逢い>に恵まれた。時には<死>という悲しい別れもありつつも、それこそが彼女に<生>をというものを教えてもくれた。
ゆえに、<千堂アリシアという個>としてその存在を確立していくことができた。
だから彼女は、満たされている。とても満たされている。
無論それは、不平不満が何一つないという意味ではない。『人間は必ず死ぬ』という悲しい現実を思い知らされたことは、やはりつらかった。
また、主人の
『女性として愛して欲しい』
と願う彼女自身の希望とは合致しない。そういう部分では不満もある。
けれど、何一つ不満のない人生というものを送れている人間など、まずいない。千堂アリシアはそれを理解していることで、精神的に安定していられる。
もっともそれ自体、彼女に<精神活動>と言えるものが存在していることを前提とした話だが。
今のこの時点に至っても、彼女のそれが<精神活動>つまり<心>であるとは結論付けられてはいない。
とは言え、彼女自身はそのことにさえもう拘ってはいない。自分に<心>があるのかどうかすら、瑣末な問題と言える。
『私は私。それ以外の何者でもない』
と思えているのだから。
明確にそう思えているのなら、他に何が必要だと言うのか。
彼女は少なくとも強く何かを必要としていない。
だからこそ彼女は、一つの決心をしたのである。
「この火星を、火星に暮らす人々を、見て回りたい」
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