好羽、明帆野へと帰る
こうして
遺体を洗い清め、残った便が漏れ出てこないように肛門に綿を詰め、自分が亡くなった時に備えて好羽が生前に手配していた<業者>が届けた<死装束>に着替えさせて、丁寧に安置室へと送られる。安置室では、業者が<死化粧>も施す。
なお、この際、遺体を抱き上げるなどの一部の行為を除き、個人を敬うために専門の教育を受けた人間の看護師が対処するのが一般的だった。
安置室も、ただの無機質な<保管場所>ではなく、祭壇が供えられ遺体が傷まないようにしっかりと冷やされている以外は一般的な個室と変わらない、むしろ見た目にはあたたかみさえ感じられる穏やかな印象の部屋だった。
この間に業者は、
一方、
それら一切合切を、好羽は生前から手配していたのだ。専門業者以外の手を煩わせることのないように。死亡診断書の届け出も、同じ業者が行う。
彼女のように親族がまったくいない者も現在では珍しくなく、それでいて、<人生の終わり>は誰であっても必ず訪れるので、好羽が手配したような業者は仕事がなくなることはなかった。むしろ親族がいても、故人をただ悼みたいからとすべてを任せる事例も決して少なくはない。また、好羽の場合は、血縁はなくとも親族以上に親身になってくれる縁者は多いのだが、彼女はその者達の手を煩わせることは望まなかった。
なお、その業者もメイトギアなどを運用しているものの、人間でなくても構わない雑事を任せるくらいで、故人や遺族に直に接する諸々の作業については、人間の職員がほぼ対応する。時に取り乱して騒ぎを起こす遺族や関係者もおり、そういう場合にはメイトギアが間に入ったりもするにせよ、それもあくまで双方に怪我などがないようにという配慮からのものだった。
こんな風に、多くのことがロボットによって賄われるようになったとはいえ、<人としての情>が重視されるような場合には、いまなお、人間がそれを担当するのだ。
まあ、他の都市にはそれこそ合理性を重視して逆にほとんどを専用のメイトギアなどに任せるところもあるそうだが。
この辺りはそこに住む者達の感性の問題なので、余人が口を挟むべきことではないのだろう。
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