千堂アリシア、間倉井医師を想う
さらにこの時、自宅に帰っていた千堂アリシアと
「
厳しくも愛嬌があり、何より人間に対する限りない愛情を感じさせる偉大な医師の訃報に、アリシアは両手で顔を覆った。短い間だったとはいえ、共に
しかも千堂にとっては、こちらも短い間とはいえ世話になった立場だ。弔意を示す電文をその場で手配する。
その上で、
「とても力強い方でした……生命力に溢れた方でした……それなのに…信じられません……」
両手で顔を覆ったままそう呟くアリシアに、
「ああ。そうだな。でも、命はいつか終わりを迎える。だからこそ彼女は力強く生き、そして生き切ったのだと思う。私はその在り方に、敬意を表したい……」
穏やかに告げた。
「はい……」
アリシアも、手で顔を覆いながらも応える。
亡くなったことは残念でも、
そうではない。そうではないはずなのだ。
ただ同情されるだけの憐れな末路ではなかったはずなのだ。
ならば、最大の敬意でもって送るべきではないだろうか?
千堂はそう言っているのである。
そしてそれは、森厳やレティシアも同じだった。
「通夜からして、賑やかに送り出してやらねばならんだろうな」
「そうですね。彼女に『五月蠅いよ!』と叱られるくらいには、盛り上げなくてはいけないと思います」
花火が上がる度にきゃあきゃあと歓声を上げる
こうして一時間余りで花火は終わり、祭自体もそろそろ終わりに向けての寂寥感を見せ始めた中、
「ばいば~い!」
「ばいば~い♡」
この場で親しくなった少女と手を振り合って別れを惜しんだ結愛を連れて、森厳とレティシアは、帰りのタクシー(と言う名の臨時バス)に乗り込み、家に帰った。
「楽しかったかい?」
森厳が問い掛けると、
「うん!」
この結愛がどれだけの時間を生きることになるかは、まったく分からない。けれど、できれば
そのためには、無駄な争いのない世界になってほしい。
<我が子>を戦争で喪っているからこそ、そう思うのだった。
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