森厳、好羽を想う

一方同じ頃、宿角すくすみ結愛ゆな森厳しんげん達も祭を堪能していた。


「ねえ、金魚すくいしよ!」


「うん!」


いつの間にやらこの場で知り合ったばかりの同じ年頃の少女と、それこそずっと友達だったかのように仲良くなり、一緒に屋台をめぐっていた。辻堂つじどう安吾あんごが教員を務める学校の生徒だった。


そんな様子を、結愛の両親だけでなく、森厳やレティシアが目を細めて見ている。自分達の直接の子孫はいないものの、これまで多くの子や孫のような人間達と接してきて、その成長を見守ってもきた。この明帆野あけぼのにも、森厳やレティシアを両親や祖父母のように慕う者達もいる。結愛ももう曾孫のようなものだ。それこそ玄孫のような存在だっている。血や遺伝子は残せなかったかもしれないが、自分達の存在そのものを受け継いでくれる者達は確かにいるのだ。


その時、どーん!という音と共に湖の上に花火が上がった。


「わあ!!」


「きれい!!」


結愛と親しくなった少女と結愛が、満面の笑顔でそれを見上げる。鎮魂と御招霊を兼ねたものだった。


次々と打ち上がる花火を見つめつつ、森厳は想う。


好羽このは……お前ももう逝くのか……』


彼の細君であるレティシアとも共に明帆野あけぼのの礎を築いてきた盟友だった。朋友だった。その間倉井好羽まくらいこのはがつい先ほど息を引き取ったと連絡が入った。他に家族がいないゆえに、森厳とレティシアが親族代わりになっていたのだ。


「最後にニーナの子を迎えられたのは、大往生でしたね……」


穏やかに話しかけるレティシアに、森厳も、


「ああ……まさしくあいつらしい最後だよ。あいつが名をもらった祖先も同じような最後を迎えたそうだ……満足いくものだったと思いたいな……」


と応え、レティシアは、


「そうですね……」


静かに微笑む。


死は、悲しいものだ。つらいものだ。苦しいものだ。恐ろしいものだ。だが、それを少しでも意味のあるものにすることはできるし、間倉井まくらい医師もそれを目指してきた。完璧ではなくても、<よりよい死>を目指して努力を続けてきた。


その間倉井まくらい医師の魂を迎えるかのように、間倉井まくらい医師の魂がここに還ってくるための<迎え火>のように、無数の花火が次々と上がり、夜空を照らす。すると、わずかに花火が途絶え、会場が少しざわついた。けれどそこにまた続けて花火が上がった。


その<間>を、


「もしかしたら好羽このはが、『まぶしすぎるよ、ちょっとは抑えな!』とでも言ったのかもな」


と森厳が評し、


「確かに、好羽このはがいかにも言いそうなことですね……」


レティシアが微笑んだのだった。


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