秀青、花火に感心する

かつてロボットを、特にメイトギアを毛嫌いしていた秀青しゅうせいだったものの、今はもう、アリシア2234-LMNを信頼するくらいにはなれていた。と同時に、だからと言って依存してしまうほどでもない。ただ自分を確実にサポートしてくれる<有能な秘書>くらいには思うことができてるだけだ。


だから、いつかアリシア2234-LMNと別れる時が来ることも覚悟はできている。そしてアリシア2234-LMNも、その時が来れば秀青の幸福を願い身を引くだけである。そういう関係性がしっかりと成立していた。


それを改めて確認した時、背後で花火が上がり、振り向いた秀青が、


「へえ! 思った以上に本格的だね」


感心して声を上げた。彼の言うとおり、明帆野あけぼのの花火は、総数一万発以上の本格的なものだった。花火職人が会社ごと移り住んでいるからである。


JAPAN-2ジャパンセカンドのような都市部は開発され過ぎていて、昔ながらの花火が似合わないから』


というのが理由だそうだ。それでも、イベントで花火の依頼があればわざわざ出向いていって花火を上げるそうだが。そして、その職人の花火を求めている者もいるのだそうだ。


実際、JAPAN-2ジャパンセカンドの外周部には、高層ビル群が視界を遮ったりしないような地域も存在する。そういう場所では、花火も映える。都市部で喜ばれるのは、もっと派手で手の込んだ<仕掛け花火>系なのだとも言われているらしい。テーマパークで催される種類の花火とでも言うべきか。そういうところのものはそれこそ、AI制御でアトラクションと連動して花火が上がるのだ。実にシステマチックで、人によっては『味気ない』と感じるとも。


そう言われれば明帆野あけぼのの花火には、何とも言えない人間臭い<間>があって、展開の読めなさがある印象だろうか。たまに点火に失敗して上がらないものがあったり、『不発か?』と思ったら急に上がったりと、不測の事態も起こる。AI制御のそれはそういう不確定要素さえ予測して何重にもバックアップが用意されていて、ミスがほとんどないのだ。


どちらを好むかは人それぞれなので、『どちらが正解か?』という問題ではない。


秀青が見ていた時も、脈絡なく途切れて、


『ん? 終わりかな……?』


と思ったら連続して花火が上がったりして、打ち上げのタイミングにやや不備があったことが窺えた。けれど、それ自体が<味>とも言える。


この<不規則さ>が逆に、


『人間味を感じさせる』


のだろう。


秀青も、港から少し坂を上ったところから、アリシア2234-LMNと共に、見入っていたのだった。


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