メイトギア特有の不自然さ、超えられない壁

間倉井まくらい医師の意識が戻らないことで、間倉井まくらい診療所では、朝倉病院を含む複数の病院の医師がローテーションを組んで、<遠隔医療>を行うことになった。


これについて、明帆野あけぼのの住人達は、


間倉井まくらい先生、大丈夫なのかねえ……」


「先生ももうお歳だからね……」


「手術は成功したって話だったけど……」


様々話し合っていた。診療所そのものはニーナと寛慈が入院しているだけで他には一日十人程度の患者が訪れる程度なので、それほど問題はない。


ただ、中には安吾と同じく<メイトギアアレルギー>が強い者もおり、そういう者は、医師が直接メイトギアを操作することで対処した。人間が専用の端末を用いて直接メイトギアを操れば仕草そのものも人間のそれとなり、


<メイトギア特有の不自然さ>


がほとんどなくなるため、平気になるのだ。いわば、


<全身義体の人間>


と変わりなくなるのである。だからやはり、人間とロボットは違うというのが分かる。


今よりさらに人間の仕草に近付けようとする試みも行われてはいるものの、<人間の仕草>というのは実は、


<非合理的で不合理で意味のない思考の揺らぎ>


がもたらしているものであるのは判明しており、それをAIで再現しようとすると、その、<非合理的で不合理で意味のない思考の揺らぎ>に大きなリソースが割かれてしまうために、パフォーマンスが大幅に低下してしまうことが分かっている。


これは、千堂アリシアのデータを分析したことでも得られたものだった。彼女は確かに人間としか思えない振る舞いをするが、その分、本来のアリシアシリーズよりもパフォーマンスが低下しており、今回の間倉井まくらい診療所でのそれも、実際には秀青しゅうせいのアリシア2234-LMN側のAIの補助があって実現していたパフォーマンスだった。


つまり、本来のパフォーマンスを発揮するには、メイトギア二体分の処理能力が求められるということなのだ。


これは、商品として採用するにはあまりにも非合理的であると、メーカー側としては判断するしかない。だから、千堂アリシアのそれを再現しようとするのは、それこそ、


『メイトギアショーに出展するために<未来のメイトギアのイメージモデル>としてワンオフで製造したものを、そのまま一般販売する』


ようなもので、メーカーとしては『割に合わない』のである。


なので、現状では、<メイトギアアレルギー>を持つ者に合わせて作ることは、現実的ではなかった。なので結局、人間の医師や看護師を派遣するか、人間が直接メイトギアのボディを操るかになるのだった。


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