千堂アリシア、高負荷状態で運用される

そんなわけで、


「申し訳ありません、千堂さん。アリシアさんの協力をお願いします」


と、医師が看護師の役割までするわけにもいかず、<メイトギアアレルギーを持つ患者>に対応するために、千堂アリシアが久美や亜美にリンクして看護師として対処することになってしまった。


「いえ、皆様のお役に立てるのなら嬉しいです」


千堂アリシア自身は二つ返事で引き受けてくれたものの、実は、<アリシア2234-HHCアンブローゼ仕様>とリンクしての、


<ラグに関するデータ集め>


の役目も並行して行うことになり、久美ないし亜美と、アリシア2234-HHCアンブローゼ仕様を同時に制御していた。


そのこと自体は、別に問題はない。<クイーン・オブ・マーズ号事件>の際もそうであったように、アリシア2234-LMNの機能として複数のメイトギアとリンクし同時に稼働するのは本来の運用方法の一つだからだ。


ただそれは、機体の制御そのものはリンク先のメイトギアのAIに依存したものであり、千堂アリシアが見せる<人間性>のようなものまでは、すべての機体で発揮することはできない。それをするためには、千堂アリシア自身のAIが制御するしかないので、今の彼女には負担が大きすぎるのだ。


だから精々、『千堂アリシア自身ともう一体』程度が、


『人間のように振る舞える』


限度だった。


で、それについては間倉井まくらい診療所を優先するしかなく、結果として、


「なあ、なんか今日、アリシアちゃん、そっけなくね?」


「やっぱり、お前もそう思うか?」


アンブローゼに拠点を置く<サバイバルゲームチーム>のメンバー達が、いつもはもっと愛想のいい、


<千堂アリシアがリンクしているアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様>


が淡々とした様子であることに気付いていた。


無理もない。アリシア2234-HHCアンブローゼ仕様の方については、機体のAIに制御を依存し、千堂アリシアとしてはあくまでそれを管理している状態だったのだ。


メンバーらがそのように話しているのが聞こえてしまって、アリシアは、


「申し訳ございません。現在、高負荷状態なため、アリシア2234-HHCアンブローゼ仕様に制御の大半を任せています。ご了承ください」


と詫びた。それに対してメンバー達は、


「あ、ああ! そうなんだ?」


「悪い、無理させるつもりはないんだよ」


「ごめんな」


口々に謝ってくる。彼らとしても、ある程度はメイトギアの仕様としてそういうこともあるのは知っていたのだった。


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