藤田医師、オペを終える

そうして、三時間に及んだ藤田医師によるオペは終了した。


これを目の当たりにすれば、


『遠隔医療ですべてを済ませる』


ことの難しさを改めて思い知らされるようなオペだっただろう。確かに、間倉井まくらい診療所において、間倉井まくらい医師の指示の下で久美と亜美が行っていたオペも大変なものだったし、普通なら、


『ナース仕様のメイトギアでこれだけのことができるのであれば、医師が指示を与えれば済むのだからラグなど気にしなくてもいいのでは?』


と思うかもしれないものの、汎用性を重視して設計されているメイトギアでは、残念ながら藤田医師のような飛び抜けた才覚を持つ医師の技術を完全には再現できないのである。また、ロボットの場合は、命に係わる瞬間には必ず人間の判断を仰ぐ必要があるため、それでは間に合わないのだ。


逆に、『命を奪う』という話の場合は、百を超える条件さえ満たせば<死>という最悪の結果がもたらされようと不問に付されるため、実はむしろ簡単とさえ言えるだろう。対して、『命を救う』ためには、その時その時に適切な判断をしなければならない。


そして、判断→実行までにかかる時間をも極限まで削らなければならない時もある。


なので、人間が判断し決断し指示を与えてからロボットが実行するのでは間に合わないことがあるのだ。


その点、人間自身が医療用ロボットを直接操作するのであれば、<指示>の行程を削ることができる。ゆえに、高度な医療になればなるほど、ロボットに任せることができなくなっていくという。


いずれにせよ、技術的には、汎用性を完全に諦めれば藤田医師のオペをロボットで再現できる可能性はあるものの、だからこそ藤田医師の指捌きを正確にロボットアームに伝えることができるものの、自律型ロボットにやらせようとすると<人間からの指示>の行程が必要になることで、やはり人間が直接使う場合に比べると余計な時間が掛かってしまうのは、避けようがない。


などといったことを乗り越え、オペを終えた間倉井まくらい医師は集中治療室へと移された。オペは完全に成功したものの、<老い>が何をもたらすかは、まだ分からない。だから慎重な経過観察が必要となる。


その上で、間倉井まくらい医師はここでもニーナの出産を見守る。


『さあて、あんたもいよいよクライマックスだよ。ニーナ』


本当なら完全に眠った状態で回復を待つ方が望ましいのだろうが、間倉井まくらい医師が譲らなかったので、引き続きこうなった。


「オペが成功したことは、私にも分かるよ。だからこっから先は私の勝手で責任だ。何があろうともね。そもそもこのためにオペを受けたんだよ」


そうきっぱりと告げたのだった。


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