藤田医師、オペを開始する
こうしていよいよ始まったオペだが、今度は血管そのものを人工のものに置き換える手術だったこともあって、カテーテルではなく開胸手術によって行われることになった。
ただし、<開胸>と言っても、切るのはわずか数センチ、そこから極細のカメラ付きロボットアームや鉗子を差し込み手術するため、局所麻酔でも行えるものだった。傷口を小さく済ませ術後の回復を早め、QOLを限りなく高めることを目指してのものである。
藤田医師は、この術式の第一人者の一人でもあった。それが、
わざわざ今の人間社会を根底から支えてくれているロボットを否定するような者達のために、他の多くの患者を犠牲にすることはできないと考えるのは、病院としては当然のことだったに違いない。そんな病院側の判断を<悪>と断じることはおそらく<正義>ではない。
もっとも、
けれど、それを、<人類の夜明け戦線>のようなテロリストと混同してしまいがちなのも、人間が陥りやすい思い込みというものなのだろう。そしてそれを単なる思い込みだと分かっていても、社会の大多数の認識がそうだとすれば無視できないというのも、人間という生き物の
残念なことではあるが。
さりとて、
『初期対応が遅れたお詫びとしても、この手術を成功させなければ……!』
藤田医師はそう自らを奮い立たせた。恐ろしく細かい指先の動きでロボットアームを的確に操作し、もはや崩壊寸前だった血管を人工血管へと交換していく。
カメラによって映し出されるその光景は、まさに魔法のようですらあったのだった。
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