間倉井医師、藤田医師と顔を合わす

そんなことを考えている間倉井まくらい医師を乗せ、救急ヘリは順調に行程を消化。爆弾低気圧の影響が残っていたことで天候は必ずしも良くなかったものの、大きな問題も生じなかった。


そこまで<神>とやらは足を引っ張らなかったようだ。


そして朝倉病院心臓外科のオペ室に搬入され、さすがに間倉井まくらい診療所とは次元の違う設備の中で、オペの準備が始まった。そして、執刀する藤田医師は、女性だった。しかも、まだ若い。


まあ、『若い』と言っても四十代なので、外見が若く見えるというだけではあるが、百歳前後の現役医師も珍しくない現在では、四十代はまだまだ若いと言っても差支えはないのだろう。


「おや。妙に肝が据わってるからよっぽどのベテランかと思ったら、ずいぶん若いね」


藤田医師と初めて直接対面した間倉井まくらい医師が思わずそんなことを。


けれど、藤田医師は、


間倉井まくらい先生に比べれば私なんてまだまだ尻の青いひよっこですよ」


手術着を身にまといほとんど目しか出ていないマスク着けていても分かるくらい穏やかに微笑んだ。確かに、百二十歳の間倉井まくらい医師から比べれば四十代など、<ひよっこ>どころか赤ん坊みたいなものだろうが。


「なら私は、そのひよっこに命を預けるのかい? そりゃ豪儀な話だね……」


苦笑いを浮かべる彼女に、藤田医師は、


「それが時代の流れというものでしょう」


負けじと笑みを浮かべる。その豪胆さに間倉井まくらい医師は感心し、


「なら、あたしを、ニーナのお産が終わるまでは死なせないようにしておくれ。ま、死んだらうちのロボットに乗り移ってでも赤ん坊を出迎えるけどさ……」


まったく、本気なのか冗談なのか分からないことを口にする。そんな彼女に対しても、


「全力を尽くします」


今度はキリッと凛々しい表情で返す。いよいよオペが始まるのだ。もう、久美と亜美が施した補強のおかげでかろうじて保たれているだけの血管すべてを人工血管に置き換えるオペが。


とは言え、救急ヘリの中でもただ見守っているだけではなく可能な限りの情報を集めていた藤田医師も、


『思った以上に血管の状態が悪い。むしろよくここまでもったものだ。少なく見積もってももう十年以上前に今の状態になっていてもおかしくなかったはずだ。『医者の不養生』とは言うものの、間倉井まくらい先生の場合は、彼女だからこそここまでもたせられたんだろうな……』


久美と亜美のオペによっても得られた情報、特に、カテーテル先端に備えられたカメラの映像を確認し、声に出さず呻っていたのだった。


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