ニーナと安吾、いちゃつく

こうして藤田医師による間倉井まくらい医師のオペが始まった一方、間倉井まくらい診療所の分娩室では、ニーナと安吾の、甘い、甘~いやり取りが続いていた。


「だけど私、パパが泊ってってくれるのを期待してたんだよ?」


「え~? いやそういうの言ってくれなきゃ分かんね~よ」


「ホント、鈍感なんだから」


「いやいや、『言わなくても分かれ』ってのは違うだろ? 女だからって男に何でもかんでも丸投げってのはおかしいって」


「パパ、そんなだからモテなかったんだよ。私がいなかったら結婚なんかできてないよ?」


「うっせ~よ。ニーナだって可愛げなんかぜんぜんねーってんで、クラスの男連中からは女として見られてなかったんだぞ? ニーナの方こそ俺がいなきゃ結婚とかできてねーよ!」


「なにそれ、ひっどーい!」


などと、文言だけ並べれば痴話喧嘩のようにも思えるが、実際の口調はそれはまあ甘々な雰囲気だったので、単にいちゃついているだけである。


傍で聞いているだけのアリシアも、苦笑い。


でも、そうやってリラックスできているなら安心と言えるだろう。


分娩が始まってからすでに六時間。胎児の様子は安定しているし順調に産道を下りてきているものの、まだ時間はかかりそうだ。


つくづく、


『赤ん坊からすれば、真っ暗な中ですごく締め付けられた状態でいつ終わるとも分からない行程をこなしているわけですよね。よく耐えられるものだと思います。私達ロボットはそんなことを恐れたりしないですけど、人間はそういうのを本能的に恐れると思うのですが……


……は! もしかして、生まれる時のこの苦しみが無意識の領域に残っていて、それで不安になるのでしょうか? 生まれる時はいつか終わるのが分かっていても、出産時とは違う状態で狭いところに閉じ込められたりすれば、それは恐怖なのでは……?』


などとも思ってしまう。もちろん口には出さないものの、そう考えている間にもアリシアの表情は百面相のように変わっていた。リーネの意識が安吾にばかり向けられていることで、意識して表情を固定する必要がなくなっていたからだ。


しかし、ニーナは見ていないものの、安吾からは視界の端にアリシアの百面相が見えていて、


『やっぱりこいつ、変なロボットだな……マジで人間みたいだぞ……?』


などと思ってしまっていた。そしてそれは、タブレット越しにニーナを見守っていた間倉井まくらい医師もそうだった。藤田医師によるオペを受けながらもタブレットを自身の眼前にセットしてもらっていたのである。


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