間倉井医師、安吾に告げる

「先生は約六十七分間、意識を失ってらっしゃいました」


亜美がそう応えると、続けて、


間倉井まくらい先生、初めまして。朝倉あさくら病院心臓外科の藤田と申します。大変遅くなりましたが、これより先生のサポートを行わせていただきます。ご安心ください」


久美の口を借りて、臨時の医師がそう告げた。


「ああ…それはありがたい……なら、もし私がくたばっても大丈夫だね……」


間倉井まくらい医師がうっすらと苦笑いを浮かべながら応える。だがそれに対しては、


「先生、そんな縁起でもないことをおっしゃらないでください。私は別に先生の死に水を取りに来たんじゃありませんよ」


久美にリンクした藤田医師は、穏やかな口調でそう諫める。


「そりゃそうだ……ダメだね、歳をとると考えがネガティブになりがちだ……」


間倉井まくらい医師も、今度ははっきりと口元に笑みを浮かべて応えた。


すると藤田医師はさらに、


「先生を搬送するための救急ヘリがそちらに向かっています。あと一時間くらいは掛かりますが、大丈夫。私がもたせますよ」


そう告げた。


「よろしく頼むね……」


応えた間倉井まくらい医師の表情には安堵の色も見える。そしてそれは、分娩室でニーナと言葉を交わしていた千堂アリシアも安堵させた。


さらに、間倉井まくらい医師は、


「……外が静かだね……風は収まったのかい…?」


問い掛けてくる。


「はい。二十五分前に暴風警報は解除されました。大雨警報は継続中です」


配信されている気象情報を確認した亜美が告げると、


「てことは、安吾の奴が来て、焦れてるんじゃないか?」


見事、安吾が待機所で立志や秀青と一緒に待ちぼうけを食らっていることを言い当てる。


「はい。おっしゃる通りです」


待機所の監視カメラ映像を確認しながら亜美が応えた。それを受けて間倉井まくらい医師が言う。


「なら、待合室のスピーカーに繋いで」


「了解。待機所のスピーカーに接続しました。発信できます」


「おい、安吾。いるんだろ? 今はロボットに付き添ってもらってるが、あんたも望むならニーナに付き添ってやってもいいよ。そのつもりなら消毒室に入りな。そこで手術着に着替えて分娩室に行け」


突然、声を掛けられて、


「はいっ! え……あ、分かりました!」


元々そのつもりだった安吾は、メイトギアが中にいると聞いても、とにかくニーナの傍に行きたくて、そう応えた。


『もし無理なら出てくればいいもんな』


と考えて。


「おう! 立ち会うのか。ニーナさんによろしくな」


立志に声を掛けられて、


「ああ、分かった……!」


安吾は消毒室へと入っていったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る