秀青、いろいろ察する

『誰……?』


秀青しゅうせいを見て安吾は思わず呟いた。それに対して、


「うちに泊まってるお客さんだよ。昆虫の研究のために来たそうだ。で、メイトギアを連れてて、今、ニーナのお産を補助してもらってる。間倉井まくらい先生の指示の下でな」


立志が説明を加えた。


「メイトギア……?」


そう聞いた安吾が身構えるが、


「別にお前の相手をしようってんじゃねーんだから心配すんな。ニーナはメイトギアアレルギーとかねえだろ?」


立志が言うと、


「あ、ああ、そうだな……」


安吾も少し落ち着いたようだ。


立志が口にした<メイトギアアレルギー>というのは正式な病名などではないものの、ロボット、特にメイトギアに対して強い強迫性障害の傾向を見せる者を俗にそう呼んだりすることもあるというものだった。


その様子から、秀青も大体の事情は察していた。


『元々、ここはロボットが苦手な人達のコミュニティらしいしね……』


アリシア2234-LMNは連れてきているものの、メイトギアを苦手としている人の前にまで連れ歩くつもりはなかった。家族が今回の研究旅行について、


「アリシアを連れていくなら」


という条件で許可をもらったので連れてきたというのもあったのだ。しかしそれが功を奏した。本当に世の中は何が幸いするか分からないものである。


などと、事情を知らない秀青達は呑気なものだったが、オペ室では緊張した状態が続いていた。なにしろ医師の指示がないため、間倉井まくらい医師の覚醒を促す処置もできないのだ。


この状態で何らかの急変があっても、応急処置以上のことができない。


だがその時、


「アリシア、そちらのツバキ2308-NSに通達。医師がコネクトする」


千堂京一せんどうけいいちから千堂アリシアに、指示が下された。<律進慈りっしんじ医科大>からかかっていた圧力が解除されたことで、医師が手配できたのだ。


これにより、臨時の医師が久美にリンクすることになった。


「時間が掛かってしまって申し訳ない。だが、もう大丈夫だ。救急ヘリがあと一時間ほどで到着する。それまで頑張ろう」


久美の声で、彼女にリンクしている医師が告げた。


「はい。ドクター」


「了解しました」


亜美と千堂アリシアが応える。


『よかったあ……!』


普通のメイトギアである亜美はただ返事しただけだったが、千堂アリシアは声には出さず安堵した。


そして医師は、


「ファプルメタジン、十ミリ、静注」


と口にしながら久美の体で薬剤の投与を行った。改めて血圧を安定させるための薬剤だ。今の状態を維持し、緊急搬送に備えるためである。


と、その時、


「……あ……もしかして私、気を失ってたのかい……?」


間倉井まくらい医師の意識も戻ったのだった。


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