久美と亜美、信頼できるスタッフ

そんな<信念の人>である間倉井まくらい医師だが、その一方で、


「人間の看護師なんて文句ばっかりでロクに働きゃしない。その点、ロボットはどんなにこき使ったって文句言わないからね」


などと言って、人間の看護師を置かない理由を語っていたりもしたものの、これも実は、人間の看護師を自身の勝手に付き合わせたくなかったというのもあったようである。


実際に、久美や亜美のことは容赦なくこき使ってもいる。それこそ、一日二十四時間(火星の一日は約二十四時間四十分だが)働きづめに働かせてもいる。健康チェックを希望している住人のバイタルサインのデータが常時送られてくるので、その管理を久美と亜美にしてもらっているのもあるからだ。


こんなこと、さすがに人間にやらせるわけにもいかない。


その分、しっかりとしたメンテナンス用の設備も備えてはいるが。


けれど、すでに型落ちではあっても、もう結構長い付き合いでもあるので、ある意味では<本当に信頼できるスタッフ>でもあった。久美と亜美に対処してもらって駄目であれば、諦めもつくくらいには。


だからこそ言う。


「久美……亜美……ニーナの赤ん坊が無事生まれるまでは、私を死なせるんじゃないよ……」


呟く彼女に、久美と亜美は、


「もちろんです、先生」


「私達はあなたの命を守るために最大限のパフォーマンスを発揮します」


ロボットらしく淡々と、それでいてきっぱりと、事実だけを告げる。


そのやり取りは、ニーナには聞こえなかったものの、情報を共有している千堂アリシアには届いた。そんな久美と亜美に負けまいと、ニーナの出産の補助をこなさなければと改めて思う。




こうしてさらに一時間が過ぎると、


「ん…? 風が弱まってきたかな……?」


「ホントだ…少し静かになりましたね」


立志と秀青が、何杯目かのコーヒーとミネラルウォーターを口にしながらそう言葉を交わした。確かに、ごおごおと呻っていた風がかなり収まっている。爆弾低気圧が明帆野あけぼの上空を通過し、峠は過ぎたのだ。


端末で気象情報を確認すると、確かに天候は回復に向かっているとのことだった。


とは言え、間倉井まくらい医師の病状は一進一退を繰り返していた。すでに六箇所目の血管修復手術に入っている。よくぞまあ時間稼ぎのための臨時の処置だけでそこまでもたせられたものである。


そしてこの時、間倉井まくらい医師を緊急搬送するための救急ヘリが明帆野あけぼの目指して飛行していた。千堂京一せんどうけいいちが手配したものだった。


と言うのも、医師の手配はできなかったが、繋がりを手繰っている中で間倉井まくらい医師の要請を拒否した律進慈りっしんじ医科大の教授にとっては恩師でもある医学博士に行き当たり、


「君は何を考えているのか!?」


と一喝してもらったことで、事態が一気に動いたのである。


諦めなかったからこそのものであった。


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