間倉井医師、弱音は口にしない
でも今は、その<非常時の備え>そのものが危機に曝されている。それ自体は本当に由々しき問題だ。なのに、当の
もちろん、軽く見ていい病気でないことは知っていたもののアリシア2234-LMNが間に合った時点で安堵してしまったし、思ったより緊迫した雰囲気ではなかったし、なにより、
心の中では愚痴もこぼしつつも。
彼女にとってはそれは当然のことだった。医師として患者を不安にさせるようなことは口にすまいと自らに言い聞かせそれを貫いてきた。彼女にとってはそれが当然の<努力>だった。世の中には彼女と同じ努力ができない人間も多いだろう。とにかく普段は『努力努力』と口にしながら自分が何か不利な状態に陥れば泣き言を並べて逃げ回る者もいる。
けれどそれもまた人間の姿なのだろう。
<努力>という言葉は、誰かを攻撃するためにあるのではない。自身の信念を貫くために行う振る舞いそのもののことだ。
ゆえに、自身の信念から外れた方向には機能しないこともある。それは誰しもそうなのだ。
けれど、その代わりと言っては何だが、医師として多くの努力をしてきたし、それについては投げ出す気にもなれなかった。彼女自身が望んで好きでやってることだからだ。医師という職業は、彼女にとっては天職だった。だから貫けた。
他でもない自分自身の<やりたいこと>だったからだ。
ゆえに八十年も続けられたのであった。
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