爆弾低気圧、明帆野を直撃する

こうして、間倉井まくらい医師のオペが始まって約三時間が過ぎた。明帆野あけぼのを直撃した暴風雨の状況も刻一刻と変化する。


明帆野あけぼのがある湖は爆弾低気圧による吸い上げ効果で高潮と同じ状態になっていたが、これも十分に想定されており、防潮堤がそれを防いでいる。


港の水位もやはり上がっているものの、港湾施設にまで流れ込もうとする水は地下の大水槽へと誘導され、そこに一時貯えられる。そう。一見しただけではそれこそ離島の寒村にも思える明帆野あけぼのも、築かれた時点においての可能な限りの技術を用いて様々な対策を施された、島全体が<一種の要塞にも等しい施設>であった。


これらも当然、地球で記録されてきた数々の災害のデータを基に用意されたものだ。そしてこれを成したのは、多くのロボットの力である。ある物はしっかりと活かした上で、過剰な部分は抑えようとしているだけだ。


山側でも一部地滑りが発生、土石流となって下り落ちたが、すべてあらかじめ想定された流路を辿り、民家への被害は生じていない。それらを『起こらないもの』と想定するのではなく、『いずれは必ず起こるもの』として対処してきた結果であった。


風力発電所は止まり、各家のソーラーパネルもほぼ発電していないが、ガスタービンエンジンと蒸気タービンの複合方式の火力発電所は十分な電力を生み、無線給電で各家庭へと確実に電気を届ける。


だから安心して暮らしていられる。


なお、港湾では、安全を確保するために配されたレイバーギアが、暴風雨と激しい波をものともせず監視している。船を避難させる時にも大活躍した。


久美や亜美と同じく、淡々と、ただ淡々と、人間を守るために自身の役目を果たす。


明帆野あけぼのの住人達も、それを十分に理解している。自分達の生活がロボットによって守られていることを。ゆえに<ロボット排斥>などは訴えない。<人類の夜明け戦線>らテロリストとは違うのだ。


ただ、苦手だから、自分には合わないから、距離を置こうとしているだけなのである。


そんな明帆野あけぼのを、今まさに爆弾低気圧が通り過ぎようとしていた。


その中で、間倉井まくらい診療所では、静かな戦いが続いている。


『まったく……いい加減に楽をさせてくれないかねえ……』


間倉井まくらい医師はそんなことも思いつつ、なお諦めなかった。修復された血管は五箇所にのぼり、普通は<修復>など目指さず<全交換>という判断になるものだった。


また、何度も言うように間倉井まくらい診療所はあくまで<診療所>であり、今回のような事例については緊急搬送のうえでJAPAN-2ジャパンセカンド内の病院で対処することになっていた。にも拘らずそれをここまでもたせられている間倉井まくらい医師の存在そのものが、ロボットに勝るとも劣らない<非常時の備え>だと言えるだろう。


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