辻堂ニーナ、経緯を語る

「私は別にロボットが嫌いとかそういうのはなかったんですけど、彼は『なんか嫌な感じがする』って言ってロボットに近付こうとしなかったんです」


ニーナがそう言うように安吾も、


『メイトギアが生理的に苦手』


というタイプだった。特別何かがあったというわけでもない。ただ『生理的嫌悪感がどうしても拭えない』というだけだった。


千堂京一せんどうけいいち茅島秀青かやしましゅうせい館雀かんざく立志りっしらと同じというだけだ。<人類の夜明け戦線>に参加しクグリの指揮の下<クイーン・オブ・マーズ号事件>を引き起こした<タラントゥリバヤ・マナロフ>のような苛烈な事情があったわけではない。


だからこそ<テロ>という行為にまでは至らずに済んだというのもあるだろう。加えて、本人が幸せだったのも大きいと思われる。家族に恵まれ、友人に恵まれ、そしてニーナとの交際も上手くいっていた。


もちろん、些細な感情の行き違いなどはあったものの、その程度であれば人間同士ならおよそ誰にでもあることだろうから。


「そしたら彼、『勝手にしろ!』って言って拗ねちゃったんですよ? ほんと、子供なんだから……!」


ニーナの誕生日プレゼントにと用意してくれたアクセサリが、実は彼女がすでに持っていたものと重なってしまって、


「交換してくる!」


と言う安吾に、ニーナが、


「あなたが選んでくれたものなんだから、これでいい」


と応えたら、


「同じものがあっても仕方ないだろ!」


などとムキになって、それでニーナも、<売り言葉に買い言葉>で、


「私がこれでいいって言ってんの! なんで分かんないの!?」


つい強めに言ってしまったら、


「勝手にしろ!」


と吐き捨てて黙ってしまったのである。これは確かに安吾も大人げなかったが、


「でも、私も言い方が悪かったと思うんです……」


アリシアに向けて苦笑いを。その顔には、いくつもの汗の雫が浮かび上がっていた。出産の痛みを軽減するための麻酔により苦痛は和らげられているもののやはり肉体的には負担もある。彼女の体は胎児を送り出すために全力を尽くしているのだろう。その何とも言えない感覚がニーナにとっては不安だった。だからこうやって話をすることで紛らわせようとしているのだ。


本来ならここに安吾がいるはずが、爆弾低気圧の影響による荒天のため、それは叶わなかった。ゆえにアリシアが可能な限り補う。


もちろん、完全ではない。アリシアは安吾ではないのだから。それでも、その場で用意できるもので対処するしかないのも事実ではある。


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