間倉井医師、医師の派遣を要請する

不整脈が見られる間倉井まくらい医師をベッドに誘導した<久美>は、彼女にタブレット端末を渡しつつも処置を行う準備に入った。


「先生、救援の要請を」


そうも告げる。すると間倉井まくらい医師が、


「ああ、律進慈りっしんじ医科大に連絡を……救援要請」


指示するのと同時に、久美は<律進慈りっしんじ医科大>に連絡に救援要請を行う。


律進慈りっしんじ医科大>とは、JAPAN-2ジャパンセカンド内に設立された病院も擁する大学の一つで、医学を目指す者達にとっては最大手の医科大の一つである。間倉井まくらい医師はそこの出身者で知己も多かった。そのため、彼女にもしものことがあった時のために<遠隔地医療>を行えるように取り決めが行われていたのである。


だが、


間倉井まくらいさん。あなたにはこれまでも何度も警告したはずです。AI・ロボット排斥主義者なんかに係わるとこういうことになると! なのにあなたは我々の警告を無視した! なのに今さら助けてもらおうとか、ムシが良すぎませんか!? AI・ロボット排斥主義者が自身の主義主張の責任を自分で取るのは当たり前のことですよね? 自分のことはどうぞ自分でやってください! 我々に尻拭いを求めないでいただきたい!!」


久美が一気にまくし立てるようにそう告げた。その突然の変貌に、辻堂ニーナが、


「え……っ!?」


と頭を起こす。すると間倉井まくらい医師は、


「ああ……そうだね。だから私のことはどうでもいい。でも、出産を間近に控えた患者がいるんだ。生まれてくる子供には大人の主義主張なんてなんの関係もない。だからその子のために医師を派遣してほしい」


そう静かに応えた。それによってニーナもようやく、誰かが久美を介して間倉井まくらい医師と話しているのだと察する。ただ、


『何もそんな言い方しなくても……』


とは思ってしまった。それに、今、間倉井まくらい医師を罵った人物は認識を誤っている。明帆野あけぼのに暮らす者達は、決して<AI・ロボット排斥主義者>ではない。あくまでAIやロボットに頼り切ってしまうことは控えようとしているだけで、ここにツバキ2308-NSがいるように、必要最小限は利用しようとしているのだ。なのに世間にはその違いを理解しようとしない者もいる。久美の口を借りて激高している者のように。


相手は、律進慈りっしんじ医科大でもかなりの立場にいる者であった。間倉井まくらい医師よりは若く彼女の後輩にあたる人物ではあるものの、<AI・ロボット排斥主義者>に対する先鋭的な思想を普段から隠そうともしない人物でもあった。その人物は、


『医師を派遣してほしい』


と懇願する間倉井まくらい医師に対して、


「断る! AIやロボットを否定しておいていざとなったらそうやって都合のいい時だけ頼ってくるような輩を甘やかすから世の中がおかしくなるんだ!!」


取りつく島もなく言い放ったのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る