辻堂安吾、受け入れ態勢を整える

こうして学校の校舎の見回りをしていた辻堂つじどう安吾あんごの携帯端末に着信が。見ると、生徒の保護者からだった。


「はい、辻堂です。どうされましたか?」


通話を受けると、


「あ、先生、ちょっと裏山がヤバそうなので学校に避難したいんですが、よろしいでしょうか?」


男性の声でそう告げてくる。


「はい、もちろん結構です。学校の方は備えは万全です。すぐにお越しください」


災害時の避難所ともなっている学校なので、避難者の受け入れ態勢も整えられている。


「ありがとうござます! 今から家族五人、そちらに向かいます!」


「では、お待ちしています。道中お気を付けください」


応えながら安吾は体育館へと走り、避難者の受け入れ態勢を整える。舞台の下の収納庫から、縦横一メートル厚さ三十センチほどの赤いケースを出すと、それを床に広げてスイッチを押す。


するとみるみる中に収納されていた樹脂製と思しき幕が広がり、わずか二分ほどで高さ二メートル、広さ三畳ほどのテントになった。避難者のプライバシーを保ちながら最低限の生活環境を確保するための設備だった。ケースの部分は壁の一部となっている。


外では雨が強くなり風も強くなってきたが、それでもまだ命の危険を感じさせるほどのものでもない。しかし、早め早めの避難が推奨されており、また、受け入れ準備も見ての通り容易なので、それこそキャンプ気分で気軽に避難が行えるようになっていた。


集落そのもので強固な守りを固めることまでは無理でも、個々の防災対策は徹底されているのだ。


今回避難を申し出てきた家族の家も対策はされているものの、さすがに土石流などが直撃しては防ぎきれない可能性があったので、念のために早々に避難することにしたわけだ。




このように、爆弾低気圧の接近に備えて各々が対処している中、


「……これは……マズいかもしれないねえ……」


間倉井まくらい診療所で、間倉井まくらい医師が自身の胸を押さえながら険しい表情をしていた。それをツバキ2308-NSが察知する。


「先生、不整脈が見られます。直ちに処置を」


声を掛けて、すぐさま診察室のベッドに誘導した。


「先生…!」


検診のためにベッドに横になっていた辻堂ニーナも心配げに声を上げる。


「ああ……大丈夫……大丈夫だよ……亜美、通常の手順で検診を。久美、データを私に」


ベッドに横になりつつもそう指示を出して、ニーナの検診は行う。医師の指示があることで、ツバキ2308-NSが代わりに検診を行うことができた。


なお、<亜美><久美>というのは、間倉井まくらい診療所に配された二機のツバキ2308-NSの愛称である。日常的な区別のために間倉井まくらい医師がそう付けたのだ。


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