千堂アリシア、新しい研究に臨む

今回、千堂アリシアと<敷島紘一郎しきしまこういちろう>らが行っているのは、


『いくつもの都市を経由してメイトギアの遠隔操作を行う』


というものだった。


それ自体は、もうすでに一般的に行われていることである。メイトギア同士をリンクさせることもそうだが、例えば、かつてエリナ・バーンズが入院中もメイトギアを自身で操作することで仕事に出たり、アリシアが千堂京一せんどうけいいちと共にニューオクラホマに出張した際にアリシア2234-HHCとリンクしてメイトギア課での仕事も同時にこなしたりという形で。


もっとも、エリナ・バーンズの場合はJAPAN-2ジャパンセカンド内でのことだったので、ラグもほとんどなく、基本的には完成された技術である。


ただ、アリシアがニューオクラホマに出張した際にアリシア2234-HHCとリンクしていた時には、JAPAN-2ジャパンセカンドとニューオクラホマ双方のファイアーウォール越しのそれだったため、不正なデータが含まれていないかどうかをファイアーウォールが診断するわずかな時間の分だけラグが発生し、コンマ一秒のラグが命取りになるようなシビアは運用はできなかった。実際、千堂アリシアとリンクしたアリシア2234-HHCがメイトギア課で働いていた際にも、一瞬、反応が遅れることは何度もあった。


まあ、それについては、例の騒動の中でアリシアが忍者のように夜闇にまぎれてあれこれしていたことで、アリシア2234-HHCの方の処理が間に合わなかったりしたのも影響していたのだが。


ともあれ、その一件もきっかけとなり、『いくつもの都市を経由してメイトギアの遠隔操作を行う』ことの精度をより高める研究が行われるようになったというのが事実だ。


なお、現在ではこれは、


『本人が出張しなくても遠隔地での視察が行える』


『実際に赴かなくても遠方の親族と顔を合わせることができる』


という形では大きな問題なく普通に行われているし、そういうサービスを提供している企業もある。


これを利用し、僻地に医師を直接派遣しなくても都市部と大きく差がない医療が受けられるというのもある。


が、これも、都市のファイアーウォールの外にある僻地の場合では、やはりわずかなタイムラグが生じ、特に繊細な処置が求められる事態ともなれば、緊急搬送により都市部への患者の移送を余儀なくされる事例もあった。


今回の研究は、むしろそちらに重点が置かれている。都市のファイアーウォール外にある僻地での医療の質をさらに高めるというのが、最重要課題なのだった。


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