ノスタルジー、時代を経て変遷する

かように、<日本の原風景>のように捉えれば違和感しかない光景も、この時代ではむしろノスタルジーを感じさせるものであり、結愛も、


『おじいちゃんとおばあちゃんの家に来た!』


という気分に浸っていた。


今回の訪問は、


『人生の残り時間も少ない森厳とレティシアに少しでも安らぎを』


との想いから実現したものである。少なくとも、結愛の両親にそれ以外の意図はない。


和室の奥には、大きくて立派な仏壇。そこには、若い男性の写真が飾られていた。森厳とレティシアの息子の写真である。二人の息子は、第二次火星大戦の際に従軍。戦死している。結婚も子供もまだだったため、二人に直系の孫などはいない。だから、結愛が二人にとっては曾孫のようなものだった。


結愛は、オレンジジュースを飲みほした後、誰に言われるでもなく仏壇の前に座り、手を合わせた。それに両親も続く。昔の日本でなら、


『まずは仏壇にお参りするものだろう!?』


と言われるかもしれないが、それももう過去の話であり、むしろ一息ついてから気持ちを整え、挨拶するというのが一般的である。その辺りの<常識>や<習慣>、<風習>も、時代によって変わる。


二十世紀の時点の<常識>も、十五世紀頃のそれとはまったく違っているだろう? それと同じことだ。


<変化>を完全に止めることなど、誰にもできない。


森厳もレティシアも、自分達の息子に手を合わせてくれる結愛のことが、愛おしくて仕方なかった。


もっとも、実は二人は、息子を亡くした後に戦災孤児などを養子に迎えたりして、血の繋がらない子や孫は何人もいて、家を訪ねてくれたりもする。今回はたまたま結愛達だけだったというだけだ。


そういう意味では心残りはない。ただ、結愛をはじめとした自分に連なる者達の未来が希望に満ちたものであってほしいと願っているだけなのだ。


だからこそ、


「わしらもまだまだ、やらないといけないことはあるだろうな……」


「そうですね……」


結愛と結愛の両親らが手を合わせている姿を見ながら、森厳とレティシアはしみじみとそう口にした。


実はこの島そのものが、二人の、


<やらないといけないこと>


だった。




一方、その頃、メイトギア課での仕事の真っ最中だった千堂アリシアは、


「ぬひ~! 思った通りに動かない~!」


試験用の部屋で、一人、懊悩していた。そこに、


「千堂さん、焦らなくても大丈夫です。ゆっくり行きましょう」


透明な<壁>の向こうで何人かのスタッフと共に計器に囲まれていた<敷島紘一郎しきしまこういちろう>が笑顔で言ったのだった。


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