ジョセフ・ランディア、リスクを背負う

全機能が消失。ドアロックを物理的に解錠するための鍵も車内に閉じ込んでしまった自動車の中で気を失っている妊婦を見て、ジョセフは、躊躇することなく携帯していた拳銃の安全装置を外し、空に向けて発砲した。その上で、


「ブルートゥ!!」


と、腹の底から爆発させるかのような声を上げる。


「!?」


そんなジョセフの奇行に、自動車に縋り付いていた男性もビクッと体を竦ませるが、こそに、


「何か、ありましたか?」


近くで警官と共に避難誘導を行っていたレイバーギアの一体が駆け付けた。


<ブルート>とは、警察用レイバーギアの愛称で、最初に導入されたのが<ブルートB7>という機種だったことで、それ以来、そう呼ばれているのだという。


もっとも、現時点で正式採用され運用されているのは、


<ゴードンSK06>


という機種だが。


まあそれはさて置き、銃の安全装置が解除された上に発砲まで行われたことで、緊急度が非常に高いとゴードンSK06に搭載されたAIが判断。駆け付けたわけである。


ロボットの特性をよく理解していたジョセフならではの対応だった。ただし、彼はこの事態が終了した後には、拳銃の使用が適切であったかどうかを審議する裁判が待ち受けているが。


おそらく、救急対応の一環として最終的にお咎めなしはなるであろうものの、審議中は謹慎となるのが通例だった。彼は、それを覚悟の上で、市民の命を守るために自らリスクを背負ったのだ。


「ブルート! 救急対応! この女性を救出しろ!」


ジョセフが命じると、ゴードンSK06は、


「了解いたしました」


と応えつつ、ためらうことなく前席側のドアウインドウを破壊、手を差し入れ後席ドアのロックを解除してドアを開け、後席で気を失っていた女性を救出してみせた。同時に、ジョセフが乗ってきていたパトカーを呼び寄せて女性をそこに乗せる。


ゴードンSK06がそれを行っている間にジョセフは少女を呼びに行き、


「さあ、<ポリスオフィサー>と一緒にママを病院まで送り届けよう」


と声を掛けて、再び抱きついてきた少女を抱きかかえてパトカーに戻り、男性(少女の父親)と共にパトカーに乗ってもらい、自身の運転でサイレンを鳴らして緊急走行、病院へと向かった。


なお、現在の自動車の多くは、大柄なレイバーギアを乗せることを想定していることもあり、天井が高く作られていたり、必要に応じて後席の天井部分が跳ね上がる構造になっている。これは、意識を失った人を乗せたりする時にも役立ち、今回も意識を失っていた女性(少女の母親)をレイバーギアがパトカーに乗せる時にもおかげでスムーズに乗せることができた。


こうして、ジョセフは、自身の機転とロボットとの連携で、少女とその両親を救うことができたのである。


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