ポリスオフィサー、救いの手を差し伸べる
ニューオクラホマ市警で勤続四十年を迎えたベテラン警官のジョセフ・ランディアは、第三次火星大戦では地球のアメリカ合衆国を背後に持つ陣営の海兵隊員として軍務に服していた経験を持つ人物だった。実年齢はすでに六十も半ばを超えているが、老化抑制技術が実用化され健康寿命が百二十歳を超えた現在では、健康寿命が六十歳程度だった時代で言えばまだ三十代程度の働き盛りである。
それでいて彼は、<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>が仕掛けた発火装置が次々と炎を上げる事態にうろたえる若い警官に、
「落ち着け! これは陽動だ! 仕掛けた奴らの狙いは他にある! 消火は消防に任せて市民の安全の確保に努めろ!!」
と指示を出した。第三次火星大戦に参加した頃にはまだ十代の新兵だった彼だが、死線を潜り抜けた経験がここで活かされたと言えるだろう。
その彼の視線の先に、歩道の片隅で蹲る少女の姿があった。彼はすかさずその少女に駆け寄り、片膝を着いて、
「もう大丈夫だ。君のヒーロー、<ポリスオフィサー>が駆け付けたぞ。パパとママはどこだい?」
穏やかな笑顔と口調で語り掛けた。すると少女は顔を上げて、泣き腫らした目で、警官の制服に身を包んだ彼を見て、抱きついてきた。よほど怖かったのだろう。そんな少女を、彼は抱き締め、頭をそっと撫でながら、
「そうか。怖かったんだな。でももう安心していい。君を怖がらせる奴らはこのポリスオフィサーがやっつけてやる!」
と告げた後で、
「でも、その前に、君のパパとママを助けなきゃいけないな」
毅然とした態度でそう口にした。そんな彼に、少女は、
「……」
黙って指をさした。それは、今まさに炎に包まれようとしている自動車だった。その自動車がとまっていた駐車スペースのすぐ脇で火柱が上がったのだ。その自動車の後部座席側のドアを開けようと必死でドアハンドルを引っ張る男性の姿が。
他の警官達は、避難誘導に夢中で気付いていない。火柱が邪魔になって見えないようだ。
「分かった。パパとママを助けてくる! ここで待っててくれ!」
ジョセフ・ランディアは言いながら立ち上がり、がっしりとしたいかにも頼もし気な体を躍らせて自動車へと駆けた。
「どうした!?」
自動車のドアを開けようとしている男性に声を掛けると、男性は、
「妻が…! 妻が中に! 気を失っていて! 鍵が中に……!」
やや支離滅裂な説明だったが、ジョセフはすぐに状況を理解した。おそらく、火柱を浴びたことで自動車の回路が破損、AIが機能停止して、非常時の対応ができなくなったのだ。本来はこういう場合、AIが鍵を開けてくれるはずなのである。
そして自動車の後部座席には、お腹の大きな女性が意識を失ったまま座っていたのだった。
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