竜の刺青の男、結末を迎える

<竜の刺青の男>は、その戦いを楽しんでいた。対して、<黒ずくめの何者か>は、その戦いを、


<タスクの一つ>


としか捉えていなかった。そう。<黒ずくめの何者か>にとってそれは<目的達成のための手順の一つ>に過ぎず、そこが終着点ではないのだ。そのためのスキルを発揮しているに過ぎなかった。


そこに全力を注がなくても、自身のスタミナや目的達成までの時間配分を考慮してもなお十分に対処が可能なように自らを作り上げているのである。


ゆえに、時間が過ぎれば過ぎるほど、その差は顕著になる。<竜の刺青の男>の男の呼吸は激しくなっていくのに対し、<黒ずくめの何者か>はまったく息を乱してさえいなかった。


となれば、動きのキレにも影響は出てくる。<竜の刺青の男>も本人なりに鍛錬はしていたつもりなのだろうが、それこそ死線そのものを超える実戦経験の不足が顕著に表れたのだろう。


互角にも見えていた戦いは、突然、終わりを告げた。<黒ずくめの何者か>の腕を取ろうとした<竜の刺青の男>の腕が逆に取られて極められた瞬間に、


ボギッ!


と音を立てて折られた。一瞬の躊躇もなく、<黒ずくめの何者か>は、捉えた腕を折ったのだ。


「があっ!?」


腕を折られた<竜の刺青の男>が悲鳴を上げると、完全に動きが止まってしまった。<黒ずくめの何者か>はそれを見逃さず、背後から両手両足で<竜の刺青の男>の動きを封じ、同時に頸動脈を締め上げて脳への血流を阻害。僅か数秒で意識を失わせた。


実に無駄のない、


<確実に相手を無力化する動き>


だった。


こうして<竜の刺青の男>の意識を失わせた<黒ずくめの何者か>は、ポケットから結索バンドを取り出して男の両手両足を拘束。さらに逆エビ反りの形で固定して、呼吸と鼓動があることを確認し、その場を立ち去ったのだった。


もしかしたら男の仲間が現れて拘束を解くかもしれないが、もうすでに片方の腕を完全に折られて事実上戦闘力は失われている。ましてや救護されなければ痛みで満足に動けもしないだろう。


薬物で痛みを緩和し残った腕で銃などを使えば多少はできることもあるかもしれないが、銃など向ければそれこそ容赦なく射殺される場合もある。


事実上、<竜の刺青の男>の戦いはここで終わったのだ。




こうして<竜の刺青の男>は戦線を離脱。なおも事態は推移していた。


完全に後手に回っていた警察や軍も、ただうろたえているばかりでもない。何しろ、実際に<火星大戦>で戦場に立った経験のある者も少なからず残っていたのだ。その者達からすれば今回のテロなど、それこそ<子供の悪戯>に過ぎなかったのだから。


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