岩丸ゆかり、兄のテンションについていけない

そんなこともありつつ、岩丸英資いわまるえいしと岩丸ゆかりは、バスに乗り、<メイトギアショー>の会場へとやってきた。


「おおお~っ! さすがぁ!!」


会場近くのバス停に到着する寸前で、英資が興奮したように声を上げる。すると他の乗客が『何事か?』と視線を向けた。


「お兄ちゃん! やめてよ、恥ずかしい……!」


ゆかりが声を抑えつつも英資の肩を掴んで制そうとする。が、英資はまったく意に介そうとしない。


<メイトギアショー>に向かうと見られる人々の中に、数多くのメイトギアがいたからだ。さすがに<メイトギアショー>に関心を持つだけあってか、普段はなかなか見られないようなタイプのメイトギアもいた。


「あれはバネッサUNR? こっちはアナスタシアРХエルハ? すげえ! アリアナmk.Ⅻまでいる!」


これまでいくつもの<メイトギアショー>を巡ってきても実際には出逢えなかった機体を見掛けて、英資のテンションは一気に上がる。逆に、ゆかりのテンションは下がる一方だが。


「お兄ちゃん! 着いたよ! 降りるよ!」


「あ、待って、まだ写真が!」


携帯端末で写真を撮ろうとしている英資を、ゆかりが引きずってバスを降りた。降りた途端に、


「すいませ~ん! 写真いいっスか~!?」


声を上げながらメイトギアを連れた見ず知らずの人に話し掛ける。普通に街中でやると怪訝そうな顔をされることもある行為だが、中には自分が連れているメイトギアを自慢したがるオーナーも少なからずいて、さすがに<メイトギアショー>を目指す者にはそういうのも多いようで、


「もちろん! 僕のハニーを見てくれ! 美しく撮ってくれよ!」


などとアピールする者までいる。


その独特の空気感に、


「ついていけない……」


ゆかりはげっそりとした表情になっていた。もっとも、会場内に入ればそれこそこんなものでは済まないが。




などと、岩丸英資いわまるえいしと岩丸ゆかりが<メイトギアショー>の会場に入ろうとしていた頃、千堂アリシアは、千堂邸で出張の準備をしているところだった。出発は今夜。<ニューオクラホマ>との時差は三時間。飛行機内で仮眠をとった後、空港からそのままホテルに向かい千堂京一せんどうけいいちの体を休めてから実際の仕事が始まることになるため、アリシアも準備に余念がない。


「~♪」


楽し気に鼻歌まで歌いながらいそいそと準備を行うアリシアを、千堂邸における先輩メイドギア、アリシア2305-HHSが、開け放たれたドアの前を、冷淡な表情で通り過ぎる。


もっとも、普通のメイトギアには<感情>などないので、それは厳密には<表情>と言えるようなものではないのだが、


『メイトギアとしてはあるまじき姿ですね』


とでも言いたげなそれに見えたのだった。


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