岩丸ゆかり、兄のテンションについていけない
そんなこともありつつ、
「おおお~っ! さすがぁ!!」
会場近くのバス停に到着する寸前で、英資が興奮したように声を上げる。すると他の乗客が『何事か?』と視線を向けた。
「お兄ちゃん! やめてよ、恥ずかしい……!」
ゆかりが声を抑えつつも英資の肩を掴んで制そうとする。が、英資はまったく意に介そうとしない。
<メイトギアショー>に向かうと見られる人々の中に、数多くのメイトギアがいたからだ。さすがに<メイトギアショー>に関心を持つだけあってか、普段はなかなか見られないようなタイプのメイトギアもいた。
「あれはバネッサUNR? こっちはアナスタシア
これまでいくつもの<メイトギアショー>を巡ってきても実際には出逢えなかった機体を見掛けて、英資のテンションは一気に上がる。逆に、ゆかりのテンションは下がる一方だが。
「お兄ちゃん! 着いたよ! 降りるよ!」
「あ、待って、まだ写真が!」
携帯端末で写真を撮ろうとしている英資を、ゆかりが引きずってバスを降りた。降りた途端に、
「すいませ~ん! 写真いいっスか~!?」
声を上げながらメイトギアを連れた見ず知らずの人に話し掛ける。普通に街中でやると怪訝そうな顔をされることもある行為だが、中には自分が連れているメイトギアを自慢したがるオーナーも少なからずいて、さすがに<メイトギアショー>を目指す者にはそういうのも多いようで、
「もちろん! 僕のハニーを見てくれ! 美しく撮ってくれよ!」
などとアピールする者までいる。
その独特の空気感に、
「ついていけない……」
ゆかりはげっそりとした表情になっていた。もっとも、会場内に入ればそれこそこんなものでは済まないが。
などと、
「~♪」
楽し気に鼻歌まで歌いながらいそいそと準備を行うアリシアを、千堂邸における先輩メイドギア、アリシア2305-HHSが、開け放たれたドアの前を、冷淡な表情で通り過ぎる。
もっとも、普通のメイトギアには<感情>などないので、それは厳密には<表情>と言えるようなものではないのだが、
『メイトギアとしてはあるまじき姿ですね』
とでも言いたげなそれに見えたのだった。
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