千堂アリシア、千堂京一の下へ向かう
出発の準備を終えたアリシアに、
「私の方の準備も完了した。迎えを寄越したからこちらに向かってほしい」
「はい! 分かりました!」
飛び上がらんばかりに嬉しそうに声を上げて、返事をする。
内蔵された電話機能を使ってのそれだったので、傍目には文字通り、
『電波を受信した』
ように見えるものの、普通は千堂アリシアのような反応はしない。口には出さずデータ上で再現された音声を相手方の端末に発信するだけだ。彼女が特別なのである。
とは言え、この時は部屋で一人だったので、奇異な目を向ける者もいなかったが。それに、小型のイヤホンを耳に着けて通話する人間も多いため、いきなり声を上げる者も実は珍しくないと言えるだろう。
いずれにせよ、千堂がタイミングを見越して依頼したのだろう迎えの車が五分と経たずに到着し、
「それでは、いってきます!」
「いってらっしゃい」
アリシア2305-HHSに見送られ、千堂アリシアはトランク二つを手に乗り込んだ。
「よろしくお願いします」
「はい。お任せください」
何度も顔を合わせたことがあるドライバーだったこともあり、アリシアは笑顔で声を掛け、ドライバーも応答した。もっとも、千堂がよく利用しているハイヤーの車両は、最新式の半自動運転車である。ドライバーは運行責任者として搭乗しているにすぎない。
自動運転の技術そのものは二十二世紀にはほぼ完全に実用化されたが、やはり万が一の事故などの際には人間が責任を負わないといけないので、一般道での無人運転については、
まあ、事故そのものは少ないが。
さりとて、人間側は、ロボットの想定すら超えた無茶をすることもいまだにあり、特に自転車での無謀運転については、火星でさえ今なお問題となっている。そういう人間の無謀な行為により事故が起こると、なんだかんだと揉めることに。
カメラ映像などの証拠はあっても、データの改竄を疑って証拠能力で争うというのが一般的だった。で、データを抽出する際に不備があると、
『証拠能力不十分』
とされ、無謀なことをした側に有利な判決が出ることも。そういうことがあるので、一発逆転を期待する者も少なくない。
もちろん、ほとんどの場合は、法規を無視した無謀な真似をした側に不利な判決が出るのだが。
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