人類の夜明け戦線R、暗躍す

こうして岩丸英資いわまるえいしがウキウキで飛行機に乗り込もうとしていたその時、目的地である<ニューオクラホマ>では、不穏な空気を漂わせる者達が、商用バンの中で何やら密談をしていた。


男性三人、女性二人の計五人は、テロリスト集団<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>のメンバーであった。


<人類の夜明け戦線>と言えば、ロボット、特にメイトギアを病的なまでに忌み嫌い、人間社会からの完全な排除を目指すという極端な思想の下、破壊活動も辞さないという者達の集まりで、火星全土を震撼させた、


<クイーン・オブ・マーズ号事件>


においては、<火星最凶最悪のテロリスト、クグリ>の指揮の下、数多くの乗客を殺害したテロリスト集団としても知られている。


とは言え、事件の際に、首魁とも言えるクグリを失ったことで大きく弱体化。火星各都市の連携による徹底した取り締まりが功を奏して壊滅したともされていた。


が、テロリズムというものは、直接関わっていた者達を逮捕すれば済むというものでないのは、歴史が証明してきている。テロリスト達が掲げた理念や理想や思想に共感した者達がそれを受け継ぐ形で新たにテロリズムを継承していくからだ。


結局、


<テロに走らずにいられない環境>


というものを解消していかなければテロはなくならないのだろうが、その、


『<テロに走らずにいられない環境>を解消する』


ことそのものが容易ではないため、テロリズムの根絶は難しいというのも事実なのだろう。どれほど厳罰化しようとも、自身の命すら攻撃手段に変えるような者達には抑止力とは成り得ず、むしろ<処刑>などされようものなら、テロリズムのシンボルとして神格化されるという一面も確かにあり、現在では、


<二度と出られない代わりに生命を保障された刑務所で漫然と生を重ねて怠惰になっていく姿>


を敢えて発信することで他のテロリスト達の失望を誘い、求心力を削ぐというのが基本的な手法となっている。


人間、過酷な境遇に置かれればストイックでもいられるものの、ぬるま湯のような生活を続ければ緊張感を保つことはほぼ無理なのだ。


とても刑務所の中とは思えない清潔なリビングの中でソファーに寝転びながら漫画を読みふけったりゲームに興じたりスナック菓子を貪ったりしつつ緩んでいく姿を見たテロリスト達の多くは、


『権力に飼い慣らされた豚め!!』


と、罵るのだという。


もちろん、全員が全員そうだとは限らないものの、苦しい境遇にある自分達とは全く違ってしまったかつての<同胞>の姿というのは、多くの場合は侮蔑の対象になるそうだ。


ただこの手法は、一方で、


『人殺しを手厚く保護するとか、おかしい!!』


という反発を招くこともあり、痛し痒しといったところでもあるだろう。


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