岩丸英資、空港にて浮かれる

こうしてアリシアが千堂京一せんどうけいいちの出張の準備をしていたちょうどその頃、


「うっしっし~♡ ニューオクラホマショー、ニューオクラホマショー♡」


戦術自衛軍に所属する現役軍人、岩丸英資いわまるえいしは、火星上の各都市を結ぶ航空便が発着する空港、<富士の杜ふじのもり>へとやってきていた。彼の非番を活かしての家族旅行である。行先は、<ニューオクラホマ>。観光地としても有名な場所であるが、岩丸英資いわまるえいしとしてはそれ以上に大事な目的があった。


メイトギアの祭典、<メイトギアショー>が、今年はニューオクラホマで開催されるのである。それは、メイトギアを製造する各メーカーの誇る最新モデルや、将来を見越して開発中のコンセプトモデルが多数お披露目される、マニア垂涎の一大イベントなのだ。彼はこのために、一年以上前から休暇の予定を入れていたのだという。


ただし、彼以外の家族はそちらにはまったく興味がなく、ニューオクラホマに着けばその後は完全に別行動を予定しているが。


万が一何かあって帰りに合流できなくても、彼ももう子供ではないので、家族としても好きにさせるつもりだった。完全に諦めているのだ。


妹の<ゆかり>以外は。


「あ、アリシア2234-HHCちゃんだ! やっぱり可愛いな~♡」


中学生くらいの少年が連れたアリシア2234-HHCを見付けて、さらにテンション高く浮かれる兄の姿に、ゆかりは、


『昔はあんなにカッコよかったのに、なんでこうなっちゃったの……?』


なんとも言えない情けない表情になる。


幼い頃、スポーツが得意で人気者だった兄に、ゆかりは密かに憧れていた。


『大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!』


と、口には出さなかったものの心に決めていたくらいには。なのにその兄は、今ではもはや変質者にも等しい<メイトギアマニア>となってしまった。


が、実は、兄・英資のメイトギア好きは、物心ついた頃からの筋金入りで、幼かったゆかりは兄の<カッコいい面>ばかりを見ていて、その陰にあった<メイトギアマニアの片鱗>については気付かなかっただけというのが事実である。


なので、


『好きなものに入れ込んで周りが見えなくなる。自分の見たいものしか見なくなる』


という傾向は、兄妹揃ってのものだったりするのだが。




「十時十五分発、ニューオクラホマ行き、AJA(オール・ジャパンセカンド・エア)二七七便をご利用のお客様、ただいまより搭乗手続きを行いますので、窓口にお越しください」


アナウンスが流れ、


「ほら、お兄ちゃん、行くよ!」


「言われなくても! まだ見ぬメイトギアちゃん達が俺を待っている!」


英資とゆかりとその家族は、搭乗手続きのために移動したのだった。


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