止まぬテロリズム、その動機

なお、現在のテロリストの多くは、家庭にメイトギアの導入することもままならない、いわゆる<貧困層>の出身者が多いのは事実なのだが、そうは言っても、現在、生命にまで危険が及ぶような貧困については救済措置もあり、実は、


『貧困から脱するためにテロ活動を行う』


者はむしろ例外的な存在となっていた。それよりは、結局、


『複雑で大きな問題を抱えた家庭環境に育ったことで社会に対して強い恨みを抱いている』


という者がほとんどであるため、


『人を殺せば、刑務所で楽して暮らせる』


ことを動機として事件を起こす者も少ないのだった。


そうではなく、


『自分は特別な人間である』


『自分は社会の被害者である』


『自分がこの腐った社会を変えてみせる』


などという、歪んだ社会観や正義感から<義憤>を動機として、いわば<革命>を目指して、


<正義の戦い>


としてテロを行う者がほとんどなので、その気高き理想を忘れて惰弱な姿を晒すような者は、彼らにとっては、


<唾棄すべき落伍者>


なのだそうだ。


しかも、<生命にまで危険が及ぶような貧困>にある者達のために供給される食品の多くは、


<ロボットのみで生産・管理される大規模食品生産工場>


によって確保されているのだが、これについても、テロリスト達の多くは、


『人間がロボットによって飼い慣らされようとしている!!』


と捉えて反発しているのだという。


人間が働いて作った食品を無償で提供することに不満を抱く層もあることから、人間はあくまで管理者としてその場にいるだけで、実際に働いているのはすべてロボット、しかも、旧式化してすでに市場価値も失われたロボットを試験的に運用することで限りなくコストを抑え、ほぼ<寄付>によってのみ維持されている食品工場なのだが、


『施しは受けない!!』


などと反発する者もいる始末で、これらのことから、テロリストの多くは、本当は<理由>などどうでもよく、ただただ自身の鬱憤の捌け口、または<自己実現の手段>として<義憤>を理由にしているだけだというのがよく分かる事態だった。


ゆえに、テロリスト達の唱える理念が広がっていくこともないものの、どうしようもなく歪んだ正義漢を抱く者も一定数おり、


『社会に反発すること』


そのものに執着するのをやめられないのだとみられている。


言うなればこれは、


<度を超した中二病>


なのだろう。


さりとて、<中二病>という言葉から受ける陳腐さとは裏腹に実際に人の命が失われている以上、ただ冷笑に付すだけでは済まされないのもまた、事実である。


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