ナニーニ、抵抗する
スミレ2237-PAに抱き上げられたナニーニは、彼女の手を振りほどこうと暴れたものの、それはできなかった。スミレ2237-PAが実に柔らかく的確にナニーニの動きに合わせて力を吸収してしまうことで抑えているからだ。ナニーニからすると、空気を蹴っているような印象だっただろう。
たとえ猫であっても怪我をさせるわけにはいかないというのもある。
『さすがですね』
アリシアはそんなスミレ2237-PAを見て感心していた。
実際にはアリシアも<戦闘モード>を起動すれば、性能面では同じことができるはずなのだが、さすがに戦闘モードでそんなことをする物好きもいない上に、情動面を司る標準モードが制限されるので、性格が変わってしまう面もある。
スミレ2237-PAが使っている<危機対応モード>と同じものもアリシアにはあるが、こちらは逆に標準モードが制限されないこともあって、実は他のアリシアシリーズと同じ性能は発揮できない。何しろ、今のアリシアの標準モードの効率は、一般的なアリシアシリーズの八割程度という試算もあるくらいなのだ。標準モードが足を引っ張ってしまい、十全な機能を発揮できない状態にある。
そういう現実は確かにあるのだ。だからこそスミレ2237-PAが見せたパフォーマンスに感心してしまった。
ロボットとしては<落ちこぼれ>。それが今の千堂アリシアの実情でもある。
もっとも、アリシア自身は、そんな自分を強く恥じているわけでもないが。
残念に思う気持ちもありつつも、それが自分だとも思えている。
<憎しみ>や<恨み>や<妬み>を持たないからこそ<心>だとは断定されない一面もありながら、そういう、人間の心にありがちな<矛盾>も抱えているのが今の彼女だった。
だから、<心(のようなもの)>なのだ。
そのアリシアの前で、抵抗することにも疲れてしまったのかスミレ2237-PAに抱えられたままのナニーニを横目に、刑事達は手早く冷蔵庫の中を確認し、ドアを閉じた。そうすればもう、猫の力では冷蔵庫のドアは開けられない。そこでスミレ2237-PAはナニーニを解放する。
せっかくのご馳走を逃したナニーニは、
「あ~……っ」
と、恨めしそうに、地の底に沈み込むような一声を上げたのだった。
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