千堂アリシア、疲労困憊する
バス停のある通りへ向かう間も、コデットは、あえて家々の間をすり抜けるようにして向かった。
彼女はあくまでナニーニが普段通るルートを辿っているのだろう。ある意味では合理的な対応だとも言える。
ただしそれは、彼女のように苦もなく家々の隙間を通り抜けられる。という前提ではあるが。
家々の間は、住宅そのものの不法な拡張だけでなく、自転車やバイク、使わなくなった日用品などの置き場としても利用され、ますます狭くなっていたりもする。
コデットはそれらに構うことなく突き進むが、ロボットであるアリシアは、たとえ不法占拠であるとしても、勝手に触れることはできず、極力触れないように移動するだけでも一苦労だった。
彼女がこれまで<都市としての
だからアリシアとしては、ただただ困惑するしかできなかった。
が、そうこうしているうちにようやくバス通りに出たものの、彼女はすでに疲労困憊していた。
もちろんアリシアはロボットなので、本当に疲れているわけではない。ただ、通常はすることのない雑多で膨大な処理を行い続けたことで、彼女のメインフレームに、いつもとは違う負荷がかかったがゆえにその整理が追いつかなかったため、道路と歩道を隔てるガードパイプに寄りかかってバランスを保つようにしつつボディの方の制御は後回しにしたのが、いかにも<疲労困憊した人間の姿>に見えるということだ。
そんな彼女の様子に、コデットも、
「探偵さん、大丈夫?」
と気遣ってくれた。
「は…はい大丈夫です…!」
人間の、しかも幼い少女に気遣われて、アリシアは、情けない気分になりながらも、なんとか笑顔を向けることができた。
「秦さんちは、そこだよ」
自分を見るアリシアに、コデットは、通りに面した花屋を指差した。花屋の正面には、なるほどバス停がある。その花屋こそが<秦さんち>ということなのだろう。
看板にも、<フラワーショップHATA>の文字。
一分ほどしてようやく処理が追い付き、アリシアは気を取り直して、
「それではお話を伺いに行きましょう」
コデットにそう声をかけた。
するとコデットも、
「うん!」
と明るく返事をして、花屋に向けて歩き出す。そうして店の前まで来ると、
「おじさん、こんにちは!」
元気に声を上げる。
「はい、こんにちは。今日も元気だね、コデットちゃん」
穏やかに返事をしたのは、柔和な表情をした中年男性なのだった。
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