千堂アリシア、決意する

「ナニーニ、ブッサイク! あと、性格悪い! ミーシャのこといっつもイジメる。最低」


少女は腕を組んでぷりぷりと怒った様子だった。


「そ…そうなんですね……」


アリシアとしてもどう反応していいのか戸惑ってしまう。


こういう時も、普通のメイトギアであれば、ただ笑みを浮かべて。


『それはそれは。個性的な猫さんですね』


的な、当たり障りのない返しをするところではあるものの、アリシアはやはり人間のようなそれを見せてしまう。


すると少女も、


「お姉さん、本当にロボットさん?」


少し怪訝そうな表情でアリシアを覗き込んできた。それに対しては、アリシアも、


「はい。そうですよ」


と応えつつ、ウイッグをかき上げて、生え際を見せた。するとそこには、明らかに不自然で人間のものとは違うそれと分かる<継ぎ目>が。


「ほんとだ…!」


それだけで納得してしまう辺りはさすがに子供らしいとは思いつつ、同時に、アリシアの振る舞いに違和感を覚える点については、


『よく見てる……頭のいい子ですね』


アリシアは感心した。


もっとも、子供というのは実は、非力なだけに自分にとって相手が危険な存在か否かという部分について敏感であったりすることも判明している。なので、この少女が特別なわけではない。


ただ、利発であることは疑う余地もないだろう。


「でも、ナニーニの顔は覚えました。もし見かけたら連絡します。あなたのお名前は?」


笑顔で言うアリシアに、少女は、


「コデット! 桜井コデット!」


少し胸を張る感じで、はっきりと答えた。


「……え…?」


これにもアリシアはハッとなってしまう。


『コデット……』


その名も、彼女にとっては大変に印象深いものだったからだ。


ナニーニと同じアトラクションのキャラクターで、今も、ほぼ毎日、顔を合わせているのだから。


『まさか……こんなこともあるんですね』


目の前の少女は、おそらく十歳くらい。猫の<ナニーニ>については最近になって名付けられたものだとしても、こちらの<桜井コデット>については、ナニーニやコデットが出てくるアトラクションが作られる以前に生まれ、名付けられたものだろう。


『この子の名前が<コデット>ということで、あのアトラクションを知るどなたかが、猫に<ナニーニ>と付けた可能性もありますね』


アリシアはそう推測した。しかし同時に、


『ただ、まったくの偶然というのも、数値的にはほぼ無視できてしまう程度のものであっても、ゼロではないのも事実ですか……』


そんなことを思いつつ、アリシアは、ある決意をしていたのだった。


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