千堂アリシア、探偵になる
<桜井コデット>
少女のその名に、アリシアはある決断をした。と言うか、せずにいられなかった。
「それでは、まず、心当たりを改めて探ってみましょう」
微笑みながらそう告げると、コデットは、
「もういっぱい探したよ…?」
不安げにそう返す。けれどアリシアは、
「捜査の基本は『現場百回』とも申します。もしかすると他のところに戻ってるかもしれませんよ?」
さらににっこりと大きな笑顔で言った。するとコデットが、
「あ、それ! アニメで探偵のおじさんが言ってた! お姉さん、探偵のロボットさん?」
ずい! と、興奮気味に身を乗り出してくる。
そんなコデットに、アリシアも、
「そうですね。私はロボット探偵、アリシアです」
調子を合わせる。
するとコデットはますます嬉しそうに。
「探偵さん! 探偵さん? ありがとう!」
声を弾ませる少女に、アリシアもさらに目を細める。
少女の名前が<コデット>でなければ、おそらくここまではしていなかっただろう。また、猫の名前が<ナニーニ>でもなければ、ここまではしていなかっただろう。
あくまでもその両方が合わさればこそのものだった。
こうして『探偵として』猫探しを手伝うことになったものの、正直、彼女としては軽く考えていたというのはあった。何しろ彼女はロボット。そしてこの地にも、メイトギアに限らずロボットは無数に存在している。だとすれば、きっとどこかでロボットが目撃しているはずだ。ましてや地域で見守っている<地域猫>という存在であれば、地域の住人の意向を受けて、
<優先度の高い保護対象>
として、確実に見守られているに違いない。だから他のロボット達に問い合わせればすぐに見付かる。
見付かるはずだった。なのに……
『情報提供申請……申請が拒否されました』
と、ことごとく情報提供を拒否されたのだった。
『まさか……ここまでとは……』
排他的な傾向のある地域であることは承知していた。なので、他の地域と比べれば難しい一面があることも承知はしていた。しかし、ここまで徹底されているとは、重いもよらなかったというのが正直なところだった。
きっと、ほんの数分で終わるだろうという見通しが実に甘いものであったことを、アリシアは思い知らされることになった。
『これは、とても困難なミッションですね……』
帰宅に要する時間を考慮に入れれば、タイムリミットまではあと四時間。おそらく、この少女も、それくらいまでには帰宅しなければ親が捜索願を出すこともあるだろう。自宅にメイトギアなどがいれば、それを通じて捜索願を出すことも容易なので、子供が門限までに帰らなければ、その時点で捜索願が出されることも当然なのだった。
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