千堂アリシア、少女と出会う
「こんにちは、どうなさいましたか?」
放っておけないと思ったアリシアは、ためらうことなく声をかけた。
人間の場合でなら<声かけ事案>と言われかねない行為ではあるものの、アリシアはロボットなので、それについて心配はない。
すると、少女の方も、一瞬、驚いたような表情を見せたものの、アリシアがロボットだと気付くとホッとした表情になり、
「猫さん、探してる」
と応えた。
「それは、あなたのお家の猫さんですか?」
アリシアのその質問には、少女は首を横に振る。
その上で、
「みんなの猫さん」
と。
「ああ、<地域猫>ですね」
アリシアは察する。
<地域猫>。それはかつては<野良猫>と呼ばれた、特定の飼い主を持たない猫のことで、地域で管理されているものを指す。すると少女はさらに、
「ナニーニね、どっかいっちゃったの。ご飯、食べてないの。おなか減っちゃう。かわいそう……」
悲しそうな表情で、両手を胸の前で握り締めて、縋るように訴えかけてきた。しかし、これにはアリシアも、
『ナニーニ…!?』
と唖然としてしまう。なにしろ、少女が口にしたその名はアリシアにとっては大変に印象深いものだったからだ。
<ナニーニ>といえば、アリシアが、今、プレイ中の、<アトラクション>に登場するキャラクターの名前そのものである。
ロボットは普通、ゲームやアトラクションをプレイしない。しかし、アリシアは、つい先月のことだが、彼女が勤める<
とはいえ、キャラクターの名前をベッドなどにつけること自体は決して珍しいことでもないだろう。
だからアリシアは、これ以上、関わり合いになる必要はないと判断した。
でも、その場を立ち去る前に、
「では、私も、その猫ちゃんを探してみます。猫ちゃんの写真とかはありますか?」
少女の前でしゃがんで問い掛けた。そんなアリシアに、
「ホント!?」
少女は、くりくりとした大きな瞳をさらに大きく見開いて、嬉しそうに声を上げた。その上で、首から下げていた携帯端末を手に取り、それを操作してアリシアに向けた。
そこには、茶色と黒のブチ模様で、しかも、ひどく不機嫌そうな顔でカメラを睨みつけている猫の姿が写っていた。
『これが、ナニーニ……?』
アリシアが知る<ナニーニ>とはまるで似ても似つかないそれに困ったように微笑みながら、
「可愛いですね」
と返した彼女に、少女は、
「ううん、ブッサイク!」
力強く声を上げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます