勇者アリシア、犯罪組織を糾弾する
ボーマの街には、<
東方の思想にある<
<正当な方法では解決できない事態>
に対処するために作られたものであった。
もっとも、作られてからすでに数十年の時間を経たことで当初の理念は忘れ去られ変質し、現在の伯爵の私的な欲望を叶えるためだけの存在に成り下がってはいるが。
そんな裏組織に対し、アリシアは直接乗り込もうという。
「いくらなんでも危険では……? 私はまだお役に立てませんし……」
男達を<強盗>として役人に引き渡し、先に食事を済ませようというアリシアに、ようやく落ち着いたナニーニがおずおずと申し出る。
けれどアリシアは平然と、
「問題ありません。私は、爵位を持つ者として犯罪組織を糾弾するだけです」
笑顔で応えた。
確かに、犯罪組織から無辜の民を守るのは爵位を持つ者の務め。そういう形でなら、
<ただの人間の集団>
を相手に大立ち回りを繰り広げても、伯爵としては本来なら自分が対処しなければならなかった犯罪組織の糾弾を肩代わりしてくれただけなので表立ってとやかく言うことはできないはずだった。
『表向き』は。
「今回は私だけで行きます。ナニーニとコデットは宿で待っていてください」
アリシアの言葉に、
「でも、それでは……!」
ナニーニが食い下がるものの、
「師匠が『待っとけ』ってって言ってんだ。弟子なら言うことを聞いとけ。それとも、また足手まといになるつもりか?」
コデットが冷静に指摘する。
「ぐ……!」
こう言われてはナニーニとしては返す言葉もなかった。
悔しそうに拳を握り締めるナニーニに、コデットは、
「ワイバーン相手でも簡単に倒しちまうような奴だ。人間相手じゃそれこそ百人束になっても勝てないだろ。だから心配要らねーよ。あんたはあたしと一緒に<お留守番>だ」
ずっと年下のはずにも拘らず的確に告げた。この辺りはさすがに、
『くぐってきた修羅場の数が違う』
ということなのかもしれない。
加えて、ナニーニは、コデットが自分のことを<アリシアの弟子>と言ったことに気付いていた。それまでは<召使い>だの<ペット>だの、あからさまに侮蔑していたというのに。
だから決して自分を馬鹿にして言ってるのではないことも分かってしまった。
「はい……おっしゃる通りにします……」
力なく応え、食事の後、肩を落として宿に向かって歩くナニーニの後ろで、アリシアがコデットに何やら耳打ちをしていたのだった。
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