勇者アリシア、ナニーニを励ます

コデットの信頼度を上げる際にも触れたが、そもそも先に<信頼関係>が構築されていなければ、『厳しく』しても『優しく』しても実は十分な効果が発揮されないことは確認されている。


信頼関係が築けていない状態で『厳しく』すればただただ反抗心や恨みを醸成するばかりで、それが後に、『ハラスメントがあった!』的な訴えを起こされる大きな原因となることも分かっていた。


逆に、信頼関係が築けていない状態で『優しく』しても今度は『舐められ』たり、厳しくされないのをいいことに怠けてしまう形にもなる。


これらは、日常的な身近な事例として経験することもあるのではないだろうか?


とにかく、信頼関係の有る無しこそが、結果に非常に大きな影響を与えることは疑う余地もない。


<ORE-TUEEE!>内においてはナニーニはプレイヤーに対する信頼度がある一定値以下には下がらないように設定されているので、プライヤーが何をしても致命的な強い不信感を抱いてしまうことはないものの、それでも信頼度は上げておくに越したことはなかった。


なにしろ、信頼度を上げるだけでも彼女は稽古に身が入るようになり、その分、基本ステータスが上がるのだ。


すると、あくまで<凡人の範疇>ではあるものの戦闘力も大きく上がり、<魔法>も覚え、それによって自らを強化。プレイヤーが使えるパワーアップアイテムの効果に匹敵する存在となってくれるわけだ。


アリシアは言う。


「悔しければ、気が済むまで泣いてください。そして、落ち着いたらまた稽古をしましょう。稽古とは、努力そのものです。努力なしで望む結果は得られません。


あなたが望むのならば、私は力になります。だから一緒にがんばりましょう」


「ア……アリシア様~……!」


ナニーニはアリシアの胸に縋りついて泣いた。そんな彼女をコデットが気まずそうに見ていたものの、からかうようなことは口にしなかった。もうすでに彼女には本当に傷付いているナニーニを貶して自分こそが優位にあるというようなことを示す必要もなかった。




その後、意識を取り戻した男達を尋問したものの、有意な情報は得られなかった。伯爵が差し向けたものだというのは分かっているが、男達に直接命令したのは<マフィア>のような組織の中堅クラスの人物だったのだ。つまり、間に何人もの人間を介在させて伯爵のところまでは手繰れないようにしていあるということだろう。


当然の用心と言える。


だからアリシアも核心に迫れる情報が得られると思っていたわけじゃない。


ただ、ここボーマの街で暗躍する<マフィア>に干渉する口実が欲しかっただけである。


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